御朱印やかわいらしいお守りが目当ての神社巡りが趣味という人が増加中。神社はそれぞれに伝わる由来があり、街の歴史との関係も深い場所だ。神社からお散歩をスタートすると、何度も訪れている駅も、初めて降りる駅も、これまでとは違う景色が見えてきそう。
気分も晴れ晴れ、中央線から神社さんぽに出かけよう!
御茶ノ水駅と神田駅からそれぞれ徒歩圏内のビジネス街、神田小川町にある五十稲荷神社(ごとおいなりじんじゃ)の正式名称は榮壽稲荷神社(えいじゅいなりじんじゃ)という。まちかどの小さな神社としてひっそりと佇んでいたが、令和3(2021)年に社殿と社務所が建て直されて洗練された印象となった。江戸の初期から特に子宝・安産にご利益があるとして、徳川家からも厚く信仰された歴史を持つ。出産に限らず、新しい何かを生み出す予定があるときに訪れてみよう。
かつて織物市や縁日が開かれた五十(ごとお)さま
境内は緑豊か。
榮壽稲荷神社は、江戸時代初期の約400年前、京都伏見稲荷大社より分霊されたのが始まりと伝わる。その後、神社のあった場所が足利藩主の上屋敷に取り込まれたため、庶民が参拝できたのは五と十のつく日に限られた。さらにこの日に足利の特産品を売る織物市が開かれ、時代が下って明治のころには縁日として賑わったことなどから、親しみを持って「五十のお稲荷さま」「五十さま」と呼ばれるようになり、五十稲荷神社という愛称の方が有名になったと伝わっている。
社務所横にある五十狐は夫婦狐で古いもの。
現在の場所に社ができたのは、大正12(1923)年に発生した関東大震災がきっかけ。もともとは現在の靖国通り沿いに約200坪ほどの境内があったが、移転によって今の30坪ほどの広さに。そのとき、大震災で焼けた御神木のイチョウも移植され、その後イチョウは東京大空襲でも被害を受けたが、現在もしっかり境内に立っている。お参りに訪れたら、強い生命力を持つ御神木にも目を向けてみよう。
関東大震災と東京大空襲、2度焼けてもなお生き続ける御神木。
デザインや色合いに想いを込めた御朱印
社務所は鳥居の隣にある。
五十稲荷神社は御朱印がかわいらしいと愛好家の間で話題になっている。御朱印の頒布を始めたのは令和3年のリニューアルより少し前のこと。現在の宮司家族が神社を守るようになってからだ。
榮壽稲荷神社の御朱印(左)と狐御朱印(右)。
先代宮司は弁理士として活動しながら神社を守っていて、お守りなどの頒布までは手が回らなかったそう。代替わりした現在の宮司一家は、地域の人が憩える神社にしたいと、まず書き置き御朱印の頒布を開始し、その後、種類も増やした。神社に鎮座する夫婦狐をモチーフに選んだ御朱印は初穂料500円。夫婦狐には日本の伝統色のインクが使われていて、たとえば2025年6月は、この時期カワセミが千代田区内でも見られることから翡翠(かわせみ)色が選ばれた。他にも榮壽稲荷神社の名と地紋、文様、模様をあしらった格調高い御朱印(初穂料2000円)がある。二十四節気に合わせたもの、祝日や季節行事に合わせたものなど、そのときどきの御朱印も期間限定で用意するようになった。
狐御朱印帳(左)は初穂料3500円。クリームソーダ御朱印帳(右)は初穂料2500円。
独自の御朱印帳も用意されていて、特にクリームソーダがデザインされた御朱印帳は、瓶子(へいし)と呼ばれる御神前にお酒をお供えする器がクリームソーダの形に似ていると宮司の妻が思ったことから企画された特別なものだ。
御朱印は書き置き、書き入れの日が毎月お知らせされるので、神社のSNSでチェックしてから出かけよう。
本質に立ち返り、現代的な発想を取り入れたお守り
畳が敷かれた社務所の内部。
五十稲荷神社の社務所兼授与所は、時代劇で番頭さんが座っている帳場に似た小上がりになっている。社務所内に並べられた授与品の中で、特に目をひくのが錫製のアクセサリー。ピアス・イヤリング型(初穂料7500円)とネックレス型(初穂料8500円)があり、かつては着物の帯や襟に挟むなど常に身につけるものだったお守りを、現代でも日常的に身につけやすくするために考えたそう。
年代を問わず身につけやすいシンプルなデザイン。
錫は錆びない、朽ちないという性質から、古来より縁起の良い金属とされ、神具などに用いられてきた。ものを浄化する作用があるともされ、特に御神前に捧げる酒器、瓶子に使われてきた歴史がある。アクセサリーのモチーフは豆、狐の尻尾、アジサイがあり、そのうち豆は、かつて五十稲荷神社のお守りとして、白花豆を割って中に授与する人の名前を書いていた歴史を反映している。こちらは神職でもある宮司の妻によるアイデアで「日常使いはもちろん、仕事のときにも心強いお守りとして身につけてほしい」とのこと。ものごとを生み出すときに、心の支えになってくれそうだ。
布の袋に入ったお守りも用意されている。
他にも言霊をテーマにデザインしたポップなステッカー守り(初穂料500円)や、染め物職人が多く住んでいた神田紺屋町が近いことにちなんだ藍染の藍守(初穂料1000円)などもある。現代的な感覚と歴史背景、伝統工芸も取り入れた授与品は魅力的。手に取ったら、その背景にも思いを馳せてみよう。
原点や本質との向き合い方を日々のヒントに
リニューアルをきっかけに新しいアプローチで現代の参拝者に寄り添う五十稲荷神社。本質的なありようを再解釈した授与品に加えて、令和7(2025)年10月からは敷地内のカフェ「おすゞのひも」が本格稼働し、神前に一度お供えした甘味などをその背景も説明しながら提供する予定になっている。日々の悩みや課題も、その背景や歴史が解決の糸口やヒントになってくれるもの。五十稲荷神社にお参りして、授与品を手に取ってみると、さまざまなことが異なる視点で見えてきそうだ。
取材・文・撮影=野崎さおり
上記の情報は2025年7月現在のものです。
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