頑張った日の後には、仕事帰りにふらっと寄り道して晩ごはんはいかが?
1人でご飯って少しハードルが高い? 実は、中央線沿線にはソロ客歓迎のお店がたくさんある。メニューの内容だったり、お店の雰囲気も優しい気遣いがいっぱい詰まっている。
毎日の通勤は中央線、きっとそんなあなたに役立つ連載だ。
市ヶ谷周辺は、ドミニカやアイルランド、ベルギーなど多くの大使館や、国際的な活動をする団体が多く点在するエリア。街を散策するとさまざまな国の特色を持った料理を提供する店に出合う。今回訪ねた「LASOLA(ラッソーラ)」もそのひとつ、インドとチベット自治区に挟まれた「ブータン王国」の料理を専門とするレストランだ。
全国的にも珍しいブータン料理専門店
ヒマラヤ山脈の東端にある、南アジアの小国「ブータン王国」。日本から直線距離にしておよそ4800㎞も離れた国ではあるものの、東日本大震災発災の約半年後に国賓として来日し、心温まるスピーチで日本にエールを送った国王の姿が記憶に残っている人もいるかもしれない。日本人にも似た端正な顔立ちの当時31歳の国王と新婚だった美しき21歳王妃のロイヤルカップルは、震災で沈んでいた日本に明るい話題を振りまいてくれた。
そんなブータンの食文化を体験できるレストランが「LASOLA(ラッソーラ)」だ。各国の大使館やJICA(独立行政法人国際協力機構)の本部がある市ヶ谷に店を開いたのは偶然だったという。「近くにはチベット料理の専門店もあって、交流があるんです。結果的には良い場所を選んだなと思っています」と教えてくれたのはオーナーシェフの村上光さん。
2011年頃、当時は日本で唯一ブータン料理を提供していた代々木上原の料理店に、縁あって料理人として勤務することに。代々木上原の店で働き始めるまではブータンという国についての知識はほとんどなかったが、仕事が始まる前、1カ月ほど時間が空いたのを利用してブータンに約1週間滞在。現地の料理を食べ歩いたり、寺院を巡ったりと、食だけでなくさまざまな文化にも触れたそう。「ブータンの人たちは穏やかですごく優しいんです。滞在中は良くしてもらいました。日本人と顔立ちがよく似ているし、景色もどことなく一昔前の日本に似ている。すごく親近感を持ちましたね」。
異国情緒にあふれる店内で遥かなる国に想いをはせる
帰国して代々木上原でブータン料理の調理を担当し、10年ほど経ったのを機に独立。2021年12月に現在の店をオープンした。店内は国旗カラーにヒントを得たオレンジ色で、ブータンのお国柄を思わせるような温かな空間だ。
店内にはチベット仏教の教文が描かれた「タルチョ」と呼ばれる祈りの旗も。
テーブル席も良いが、おひとり様なら店奥にあるカウンター席がおすすめだ。窓に向かって座れば、のんびりと食事が楽しめる。
カウンターにはブータンの雑貨や国王夫妻がプリントされたプレート、ブータンを特集した雑誌や書籍も並ぶ。特等席で料理を待つ間、しばし心はブータンへ。
ブータン滞在と専門店で培った本場仕込みの料理をいざ!
穏やかな人柄のブータンの人々が好むのは、唐辛子をふんだんに使った「世界一辛い」料理。タフな環境下でも育てやすい唐辛子は、ブータンでは重要な食材として重宝され、香辛料ではなく野菜という位置付けだ。「ブータンではどんな料理にも唐辛子を使っていました。よく採れる野菜を使って料理をしたら、結果的に辛くなったという感じですね」と村上さん。
中でも「エマダツィ」1250円は代表的なブータンの郷土料理。エマは唐辛子、ダツィはチーズを意味し、浮かんでいる具はなんとすべて青唐辛子。水と塩、チーズを加え、火にかけるだけと素材も調理法もシンプルだが、チーズのコクが豊かでシチューのような味わい。ご飯と一緒に味わう日本の味噌汁のようなものだそう。唐辛子の量を見て怯んでしまうが、いざ食べてみるとただ辛いだけではなく、チーズを絡ませて味わうと野菜らしいおいしさを感じられる。
とはいえ辛さは十分にあるので、初めての人や辛さに自信のない人には「シャモダツィ」1150円がおすすめだ。シャモはキノコのことで、しめじがたっぷり。エマダツィに比べると唐辛子の量は控えめでマイルドな味わいだ。
せっかくならドリンク類もブータンスタイルで
メニューにはブータンのお酒も並んでいる。プレミアムなウィスキー「K5」1300円(グラス)はスモーキーでしっかりとコクを感じるテイスト。ロックかストレートで。
辛い料理を味わった後にはブータンの甘い紅茶「ンガジャ」550円を。牛乳に茶葉を加えて煮出すロイヤルミルクティーとよく似た味わいにホッと一息。
メニューは他にも豚バラ肉や鶏モモ、赤身の牛肉などを使った料理も。これらもそれぞれ唐辛子との炒め煮になっているそう。また、モモと呼ばれる蒸し餃子も唐辛子ペーストをつけて食べるのがブータン流だとか。
遥か遠い異国の食文化に触れるひとときは、非日常感にあふれている。いつもと違うディナーをお探しなら、ぜひ市ヶ谷へ!
お米がつなぐブータンと日本の絆
ブータンは日本と同様に米が主食で、辛い料理と一緒にたくさんのご飯を食べる習慣があるという。店では、ブータンの東部でよく食べられるトウモロコシ入りの「カランライス」550円を提供している。
60年ほど前、ブータンに渡り、農業技術の発達に大きく貢献したことで「ブータン農業の父」と称された日本人がいた。植物学者の西岡京治さんだ。ヒマラヤ山脈に位置し、標高100mから7570mと高低差が激しく平地が少ない環境下で日本米を生産することに成功し、ダイコンやアスパラガスなどの栽培を指導した。ブータンの農業を大きく発展させた西岡さんは、当時の国王から「最高に優れた人」を意味する「ダショー」の称号を贈られ、現地で亡くなった際には国葬で送られたという。ブータンでは今も「ニシオカライス」と呼ばれる日本米が生産され、長年の日本との友好の象徴にもなっている。
取材・文・撮影=篠原美帆
上記の情報は2026年3月現在のものです。
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