御朱印やかわいらしいお守りが目当ての神社巡りが趣味という人が増加中。神社はそれぞれに伝わる由来があり、街の歴史との関係も深い場所だ。神社からお散歩をスタートすると、何度も訪れている駅も、初めて降りる駅も、これまでとは違う景色が見えてきそう。
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神田駅

新生活のスタートにぴったり。「ことはじめ」にご利益ありの日本橋室町福徳神社

古くから商業が盛んだった日本橋室町は、2010年代の再開発を経て、ますますにぎわいを見せている。再開発によってできたビルとビルの間に挟まれるように、福徳神社の新社殿が建ち、今やまちのシンボル的存在だ。買い物や観光で日本橋を訪れる人が社殿前に行列をつくり、近隣で働く人はランチタイムにご祈祷に立ち寄ることもある。
福徳神社は、江戸時代に「芽吹稲荷」とも呼ばれるようになり、“芽吹く”から「ことはじめ」のご利益があるとされている。年度が切り替わった今、新生活がスタートした人、なにかを始める人は、その決意表明を福徳神社の神様に聞いてもらおう。

この記事の目次


「ことはじめ」のご利益は驚きの故事に由来

社殿前には参拝を待つ人たちの行列が。

福徳神社は、神田駅を降りて日本橋室町まで10分ほどの距離を歩くときに気になる神社だ。高いビルに囲まれた敷地に真っ赤な鳥居が映える。

社殿前に並ぶ人たちが、ちょっと列を外れて手水舎へ。

その創建は平安時代の貞観年間(859~877年)で、当時この辺りは福徳という地名だったと伝わる。祭られているのは五穀主宰、商売繁盛の神とされ、お稲荷さんとも親しまれる倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)。「福徳のお稲荷さん」の呼び名が変化して、「福徳稲荷」とも呼ばれるようになった。

時代が下って江戸時代になると、徳川家康が何度も参拝。その跡を継いだ2代将軍・徳川秀忠も慶長19(1614)年の春に参拝。当時、福徳神社の鳥居には古くからの慣例で皮つきのクヌギの木が使われていたが、鳥居に生まれ変わったクヌギの木から小さな芽が出たというから驚きだ。さらに、その芽を見つけた秀忠が「芽吹稲荷」と別名を付けたと伝わる。

芽吹き守(初穂料 800円)。

それ以来、福徳神社はことはじめにご利益があるとされている。お守りも、故事にちなんだ芽吹き守(初穂料 800円)があり、若芽色でクヌギの芽の絵柄が織り込まれたデザインが爽やか。新生活を始める人への贈り物にすると応援する気持ちが伝わりそう。

富くじ販売の歴史から金運のご利益が。今ではスマホにご祈願も

再開発の一環として再建した社殿。

福徳神社はことはじめのほかに、金運のご利益でも知られる。江戸時代には最高額300両という高額の富くじ(現代でいう宝くじ)興行を許された数少ない神社で、高額当選を願う人々がお参りに訪れ、金運のご利益がある神社としての評判につながった。

三宝に宝くじなどを置いて鈴を鳴らす。

現在も宝くじの当選を願って神社を訪れる人が多く、自由に使えるように置かれているのが、幸運鈴。三宝と呼ばれる台の上に、購入した宝くじや財布、ときにはスマートフォンを置いて、シャラランシャラランと鈴を鳴らしてお祈りする。社殿で行う祈願でも、近頃はスマートフォンを神様の前に置いて、宝くじはもちろん、コンサートなどの入手困難なチケットの当選を願う人も。ご利益あってか、当選した人がSNSに投稿して評判となり、プラチナチケット入手を切望する人の参拝がますます増えている。

福徳吉報守(初穂料 500円)。

令和7(2025)年に誕生したのが、スマートフォンなどにも貼れるステッカータイプの福徳吉報守(初穂料500円)で、幸運鈴がデザインされている。現代人にとってさまざまな知らせの入り口であり、財布やアルバムなど多くの役割を担うスマートフォンは財産に相当するという考えが頒布のきっかけとなったそうだ。財布やスマートフォンに貼って価値ある知らせを待ってみては?

ひっそり存在していた神社が再開発を機に現代のニーズに対応

道路を挟んで大通り側にあるスペースにはベンチもある。

現在の社殿が平成26(2014)年に完成したとき、福徳神社という縁起が良くインパクトのある名前の神社は、突然出現したような印象があった。再開発が行われる前の一時期、お社(やしろ)はビルの屋上にひっそりとあって、人の目には留まりにくかったのだ。

密かに存在していた歴史ある神社は、日本橋の再開発を行う企業との協力で、現在のような誰もが立ち寄りたくなる神社に生まれ変わった。鳥居が角度をつけて設置されていることで広い範囲から見え、南側と西側、どちらの道からも入りやすい。東側には「福徳の森」という公園があり、道を挟んだ西側には小さなお社や絵馬掛け、ベンチも設置されていて、敷地の境が曖昧になっていることも、ちょっとお参りして行こうと思わせてくれる。

自撮りスタンドは境内に全部で3台。

SNSに写真をアップする人が多いことから、鳥居の付近にスマートフォン用の台が置かれるようになると、鳥居を背景にした自撮り、推しキャラクターのぬいぐるみやアクリルスタンドの撮影など、神社を訪れることそのものを楽しむ人が一層増え、にぎわっている。

本宮。こちらにもごあいさつしてみよう。

実は西側の敷地にある、ガラスケースに入った小さなお社が、福徳神社の本宮と呼ばれる元々のお社だ。ビルの屋上にお社が設置されていた時代と同じ位置にある。社殿をお参りしたら、この本宮にも手を合わせてみよう。一つの神社のにぎやかさと静けさの両方が味わえる。

リスタートの希望を感じる春に

木材として切り出されて鳥居になったクヌギの木から、新たに芽が出たエピソードと、ビルの上にひっそり存在していた福徳神社が再開発によって再び多くの人に親しまれるようになったことは、リスタートの成功という点で共通している。この春、社会人デビュー、入学、異動や転職など大きなスタートがある人はもちろん、諦めかけたこと、休んでいたことをもう一度始める人も、福徳神社を訪れてみよう。想像を超えた新しい展開への希望を感じることができそうだ。

DATA

取材・文・撮影=野崎さおり
上記の情報は2025年3月現在のものです。
※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。

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