中央線沿線には、アーケード付き商店街のある町がいくつもある。多くが長い歴史を持つ。中野駅前にある中野サンモール商店街、阿佐ケ谷駅前の阿佐谷パールセンター商店街は、どちらも昭和初期から商店が集まって形成された歴史ある商店街だ。全国チェーンのビビッドなお店に混ざって、地元に根ざしたお店がゆっくり時間を紡ぎ、町の人たちによるイベントやお祭りも町のカラーを演出。昭和の活気を感じられる商店街を歩いてみましょう。
8月は大規模な七夕まつり、10月は本格的なハロウィンの仮装コンテスト
阿佐谷パールセンター商店街[阿佐ケ谷]
阿佐ケ谷駅の南口を出るとその赤い文字が見える阿佐谷パールセンター商店街。毎年8月に行われる七夕まつりが名物だ。
第1回は昭和29(1954)年、戦後の混乱がまだ続いており、商店街の振興組合も組織されていないころのこと。夏は暑くて商店街のお客さんが減ってしまうことから、「街の核となるお祭りを開催して、たくさんの人に来てもらおう」と、商店街の人たちが日本全国の夏祭りを視察。宮城・仙台や神奈川・平塚の七夕まつりを参考に、ついに実施にこぎつけた。
コロナ禍には3度中止となったものの、2026年には70回目の開催を迎え、毎年100万もの人が訪れる盛大なお祭りに発展してきた。
2026年の七夕まつりで杉並区長賞と銀賞を受賞した作品。(写真提供=パールセンター商店街振興組合)
阿佐谷パールセンター商店街の七夕まつりといえば「ハリボテ」。木材や針金で作った立体の骨組みに紙を貼り付けて作った人形のことだ。他の七夕まつりにはない飾りで盛り上げようと考えられたもので、第1回から毎年さまざまなハリボテが吊り下げられている。
その年の時流にあったもの、映画やアニメのキャラクター、動物などのハリボテが手作りされる。作り手は、今も各商店主たちが中心だが、杉並区内の小中学校も参加。ハリボテ教室も開かれている。
2009年の阿佐ヶ谷中学校の作品。(写真提供=パールセンター商店街振興組合)
阿佐谷パールセンター商店街では他にもイベントを開催。10月にはハロウィンの仮装コンテストも行われている。2001年の第1回目では、ハロウィン当日に仮装した人たちがパレードのように歩くイベントだったが、近年は一定期間に仮装して商店街の路上で撮影、応募するコンテストスタイルに。「一般の部」と「キッズの部」に分かれ、webサイトや商店街の掲示板に写真が貼り出されるのがこの商店街の風物詩の一つだ。
仮装コンテストの作品は驚くほど完成度が高く、そして実は賞品も豪華。2026年は「一般の部」グランプリとして、すぎなみギフトカード5万円が1組に送られることになっている。
2026年七夕まつりの吹き流し。
七夕まつりに至っては毎年100万人が訪れるほどの大きなイベントだが、外部のイベント会社に頼らず、振興組合の役員や青年部が実行委員会を組織して運営。昭和のころから変わらない手作り感は、阿佐谷パールセンター商店街ならでは。この街の重要な要素と言えそうだ。
パリッとした皮の中に甘さ極控えめのあんこがぎっしり
たいやき ともえ庵[阿佐ケ谷]
夏はかき氷も人気。
阿佐谷パールセンター商店街は、全長約700メートル。阿佐ケ谷駅から3分の1ほどのところまで来ると、香ばしい匂いを漂わせるたいやき屋さんがある。『たいやき ともえ庵』は2011年に中野でスタートし、商店街で小さなお店をやりたいという店主の希望から2014年にこの商店街に移転してきた。今では週末ともなると行列ができる人気店だ。
ひとつずつ作って、あんこたっぷり。
『たいやき ともえ庵』のたいやきは、一丁焼きと呼ばれる製法。長い持ち手の先に1尾ずつたいの形がついた専用の型で焼き上げる。「あんこは自家製です。当時知っていたたいやきの中で、いちばん甘さを控えめにしようと思ったんです」と語る店主の辻井啓作さん。薄く焼き上げたパリッとした皮の中に、小豆本来の味わいがしっかり感じられるあんこが頭から尻尾までぎっしり入っている。
白玉たいやき450円。
おすすめは白玉たいやき。白玉のもっちりした食感は小腹が空いたときにぴったりだ。あんこが甘すぎないせいか、ペロリといける。
お店の前に置かれたベンチ以外に店内にも座席があって、セルフサービスでお茶を提供している。阿佐谷パールセンター商店街周辺を歩くときの休憩にぴったりだ。
店主の辻井さん。
辻井さんは、お店を開く以前から小規模なお店への関心が強く、たくさんの商店街をみてきた。阿佐谷パールセンター商店街の魅力を「アーケードがあって、毎日必要な食料品などのお店がメインの商店街は、今はもう希少です」と話す。そして「阿佐谷パールセンター商店街はたいやきが似合うと思うんですよね」と続けた。
確かに周辺にはたいやきをはじめ、和菓子の専門店が他の地域より多い印象だ。辻井さんが数えてみたところ、首都圏の中でも阿佐ヶ谷はたいやき店が多い。「阿佐ヶ谷がたいやきの町として認識されたらいいなと思っています」とのこと。昭和に大ヒットした日本的なおやつ、たいやきを片手に商店街を歩いてみるのはいかが?
明るいアーケードを利用したギャラリーイベントを開催
中野サンモール商店街[中野]
中野駅ホームからも見える太陽のマーク。
中野駅北口を出て、雨でもほぼ濡れずにたどり着ける商店街、中野サンモール。始まりは、昭和4(1929)年。今より100m西側にあったJR中野駅が現在の場所に移転したことがきっかけで、駅前の商店街が形成された。
戦後間もない昭和23(1948)年に、東京都から美観商店街地域のひとつに選ばれたことで「中野北口美観商店街」と改称し、それから今に至るまでも様々な変遷がある。最初にアーケードが設置されたのは昭和33(1958)年で、現在の中野サンモールという名称に変わったのは、昭和50(1975)年に2代目のアーケードが作られたときだ。太陽光が入るように天井部分にガラスを採用。設計のコンセプトは「太陽の散歩道」で、時報の合図としてSLが走り抜ける音がアーケードに響く。現在のアーケードは3代目、平成10(1998)年に竣工したものだ。
飲食店にアパレルのお店などを中心に120のお店が軒を連ね、毎日5万人近い人がサンモール商店街を訪れる。日常的な買い物はもちろん、SummerセールやXmasセールをはじめとしたさまざまなイベントも行われている。
2026年の中野区立平和の森小学校の作品。(写真提供=中野サンモール商店街振興組合)
平成11(1999)年にスタートして以来、恒例となっているのが5月から6月に行われる空中ギャラリーだ。中野区内の小中高校に依頼して、各校の美術部や有志らに絵を描いてもらい、その絵をバナーにしてアーケードに吊り下げるというもの。開放感あるアーケードを生かした催しで、毎年力作が揃う。
2026年の空中水族館の様子。(写真提供=中野サンモール商店街振興組合)
より小さい子どもたちの作品が展示されるのが4月から5月上旬の空中水族館。中野区内の小学校や幼稚園・保育園に無地の鯉のぼりを届け、自由にデザインしてもらったものを、アーケードから吊り下げる。他にも商店街オリジナルの海の生き物も展示されて、商店街は元気いっぱいの雰囲気になる。
成人祝賀餅つき大会では和太鼓も披露される。(写真提供=中野サンモール商店街振興組合)
平成から続くイベントも好評だが、地元の氷川神社の祭礼への旧町名打越での参加や、二十歳のつどいに合わせて行われる成人祝賀餅つき大会も地元愛が感じられる行事だ。成人祝賀餅つきは50年以上続く。始まりは中野サンモールで働いていた新成人を町や商店街をあげて祝おうと企画されたものだ。当時は地方から上京して商店で働いていた人も多く、成人式のために故郷へ帰れない仲間に向けたお祝いの意図があった。隣接する中野サンプラザで成人式が行われていたこともあり、晴れ着の若者を街全体が祝っているかのようなイベントは、昭和から続く中野の気概を感じさせる。
看板屋さん手書きのメニューにも注目。名物は甘い油揚げのいなりずし
梅家[中野]
店頭でいなりずしやあんみつなどが買える。
中野サンモールが「中野美観商店街」と呼ばれていた昭和31(1956)年には、もう今の場所にお店があったという『梅家』。あんみつなどの甘いものはもちろん、お寿司や炊き込みご飯なども用意されている、落ち着いた雰囲気のお店だ。
現在3代目として店を切り盛りする岡村百子さんの祖母が創業。「もともと2階に住んでいました。この商店街は、1階がお店で2階に住んでいる人が多かったし、今も住んでいる人はいますよ」と岡村さん。
椅子の座面はかすり柄。
昭和50年代に大きな改装をして以来、補修しながら営業している店内は昭和の面影がそのまま。壁に貼られたメニュー表は、看板屋の職人さんが手書きしたもので、なんとも言えない味がある。テレビと招き猫が並んでいるのも、古くからあるお店らしい光景だ。
イートインのいなりずしはお吸い物と小鉢付きで750円。
創業者の味を引き継いだおいなりさんは開業当時からの人気商品のひとつ。油揚げは長年、中野区内の豆腐店に、このおいなりさん専用に作ってもらっているもの。甘い煮汁がしっかり煮含められた揚げは、懐かしい印象。イートインなら、おいなりさん5つにお吸い物と小鉢がつく。もちろんテイクアウトも可能だ。
クリームソーダ いちご 580円。
クリームソーダもずっと愛されている人気のメニュー。メロン、ブルーハワイ、レモン、イチゴとフレーバーは4種類用意されている。黒い小さなお盆にのせられた、いちごのクリームソーダは華やかな色合い。バニラのアイスとさくらんぼがかわいらしく、添えられた長いスプーンの柄もレトロだ。
3代目として店を切り盛りする岡村百子さん。
創業から70年ほど経ち、訪れる人も3代目、4代目という人がいる。懐かしさのあるメニューを楽しみながら、レトロな気分を味わおう。
文・撮影=野崎さおり
上記の情報は2026年10月現在のものです。
※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。