プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
桃やブドウ畑が広がる甲府盆地のほぼ真ん中で、昭和30年代に掘削が始まり、石和(いさわ)温泉郷が誕生した。風情ある川沿いに温泉宿が立ち並び、ワイナリーやカフェも点在。湯を楽しみ、ワインを味わい、ほっこりのんびりそぞろ歩きたい温泉街だ。
目的地までのアクセスと歩き方
特急あずさ・かいじ利用で、JR新宿駅から約100分、立川駅から約70分、八王子駅から約60分の石和温泉駅下車。カフェでランチした後、ブドウ畑を抜けて立ち寄り湯へ。ワイナリー直営ショップに立ち寄った後は、川べり散策を。約6kmのまち歩きなので履き慣れた靴で出かけよう。
1.
marimo café&dining [石和温泉駅/カフェ]
自家栽培野菜や果実を用いたカフェでランチを
午前のうちに石和温泉駅に到着したら一路、ランチに出かけよう。国道140号線沿いに瓦屋『一ノ瀬瓦工業』が運営する店が2軒立つ。アウトドアチェアを並べたコーヒースタンドもあるものの、多彩な食事メニューを揃えるのは、青や茶など色とりどりの瓦を抱いたダイニングカフェだ。白を基調としたシンプルな木造りで、6〜7人が座を囲む個室も用意。
おすすめは、日替わりパスタに、サラダ、スープ、パゲットが付くパスタプレート1200円(写真はイメージ)。この日は鶏そぼろとほうれん草の和風クリームスパゲッティで、クリームソースに醤油ベースの出汁が加えられ、鶏の香りがふくよか。思いのほか軽やかな食後感にも驚く。店長の松本太郎さんは、イタリアンを皮切りに、和食や韓国料理など、多彩な料理の腕を磨いてきた。「一度食べると病みつきになる人が多いですね」と笑う。山梨県産ワインも揃え、マルサン葡萄酒の甲州百(グラス)600円など、芳醇ですっきりした香りが料理にぴったり合う。
甘いものもいい。ランチタイムならお得なドリンク&スイーツセット+600円~も用意されている。マシュマロ・デ・ホットドリンク(ココアミルク)600円の甘みには体がとろけるよう。また、蒸し焼きした贅沢生チーズケーキ550円は、しっとりなめらかな口溶けで、後から濃厚な香りが口中に広がる。添えられたジャムも自家製だ。
実は、裏手の畑で果実や野菜を自家栽培している。コーヒースタンドの脇の無人直売所で、旬の実りや加工品が販売され、手みやげにもいい。瓦に記されたていねいな説明書きも必見だ。
山梨県ゆかりの品種・貴陽や太陽など、多彩な品種のすももを使ったジャムは売り切れごめん。早春からはイチゴなどがお目見えするそう。
2.
ブドウ畑[石和温泉駅]
冬枯れのブドウ畑を眺めて里歩き
カフェ裏手の踏切を渡って振り返ると、石和ならではの風景に目が釘付け。空と山、ブドウ畑が一幅の絵のようだ。武田家ゆかりのものと伝わる川田館跡も、今は牧歌的な冬枯れのブドウ畑の中。草が生い茂る平等川から南の山並を望めば、ひょっこり富士山も顔を出す。第二平等川に出たら、清流と戯れる鯉や鴨を眺めながら川沿いを歩きたい。
3.
華やぎの章 慶山[石和温泉駅/立ち寄り湯]
やわらかくなめらかな自家源泉の湯を味わう
30軒余りがひしめく温泉宿の中で、自家源泉を持つのは数えられるほど。その1軒がこちら。コロナ禍で休止していた日帰り入浴が、2022年10月に再開した。
大理石の内湯も広々としているが、露天風呂(女湯)の開放感といったら。池かと見紛うほど広く、手足を存分に伸ばしたくなる。行燈の灯が湯に映るしっとりとした趣の中、湯煙を仰げば、竹垣の向こうに竹林が青々と茂る。
こんこんと湯船を掛け流しで満たすのは、自家源泉のアルカリ性単純泉。「肌がツルツルになりますよ」と、スタッフが話す通り、なめらかな湯が肌にまとわりつくようで、湯上がりはツルスベ。体もほこほこ。
朱色の欄干が艶やかな太鼓橋を渡って帰る前に、脇の赤提灯にも注目。ランチ営業に間に合ったら、風呂上がりに一杯、といきたい。実はこの店、惜しまれながら閉店した明治42年創業の地元名物ラーメン店『三角(さんかく)屋』の味を継承していて、昔ながらの中華そば800円と、馬肉の肉めしセット1000円は知る人ぞ知る甲州名物。昼酒と一緒に堪能するのも捨てがたし、だ。
4.
モンデ酒造[石和温泉駅/ワイナリー直営ショップ]
手みやげにも、帰りの電車の車中用にもうれしいラインナップ
温泉郷内にはワイナリーも点在している。こちらは1952年創業で、以来、良質なワインを造り続けている。
現在、工場見学は休止中だが、直営ショップの回廊に、製造の様子や歴史、山梨の観光名所などを伝える映像やパネルを展示。無料試飲コーナーもあり、季節限定をはじめ、約6種を味見できるのも楽しみだ。口に含めば、キリリと辛口の甲州、すっきり軽い口当たりのベーリーAなど、品種で異なる香味の違いに目を見張る。
ショップには自社ワインやリキュールがずらり。中でも、スタッフの渡辺和奈さんのおすすめは、マスカットベーリーA上屋敷720㎖3000円前後だ。工場裏手をはじめ、周辺4ヶ所に自社畑を持ち、畑ごとに土壌や気候条件が異なるため、ブドウの香味も変わるという。「上屋敷地区は肥沃な土壌で、収穫期ギリギリまで完熟させたブドウで仕込んでいます」と渡辺さん。他にも、山ブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせ、強い酸味とスパイシーさを兼ね備えた山梨特有品種、ヤマソービニオンにも注目だ。
もう一つ、見逃せないのが珍しい缶入りワインだ。
実はこのワイナリー、缶ワインの先駆けメーカーで、コップ付きのプレミアム缶ワイン300㎖600円前後は、ひとり飲みにもうってつけ。お手軽に持ち運べ、帰りの電車の車中、ピクニック用にも最適だ。
5.
さくら温泉通り[石和温泉駅]
温泉街のシンボル小川にはパワスポや足湯が点在
近津川の両岸を彩る桜並木は春の名所だが、季節を通してのどかな小川の情景に心和む。所々に架かる木橋を渡り、石段を下りてほとりのベンチで憩うのもいい。陽だまりの中、缶ワインをここで開ければ、贅沢な心地になれる。
ふと見れば、立派な枝振りの桜の樹に祠が備わっている。
石和温泉郷は、高温多量な温泉がブドウ畑の合間を流れる付近の川に溢れ出てできた、自然の青空温泉が人気を博したことに始まる。桜はその数年後、温泉郷の繁栄を祈願して植えられ、いつしか「いで湯桜」「商売繁盛桜」と呼ばれるように。今ではパワースポットにまでなっているとか。
また、足湯ひろばが設けられ、200円で入湯可能。寒さを感じたら、足湯に浸かってのんびり温まるのもいい。季節ごとにイベントも繰り広げられている。
さらに、冬だけの楽しみもある。12月23日〜2023年2月14日の日暮れ後、往復3kmの光の回廊が出現。凛とした空気の中、冴え渡るLED55万球のイルミネーションにきっと見惚れてしまうはず。週末には足場ひろばやさくら温泉通り沿いで、ナイトマーケットが同時開催され、そぞろ歩きも楽しい。
ほこほこに温まって冬の温泉郷を巡りたい
清流の遊歩道を伝い歩けば、鴨やサギ、でっぷり太った大きな鯉にも見惚れる。また、日帰り入浴できる温泉宿は他にも多数あり、足湯も駅前、川沿いに点在。ゆったり浸かれば、いつまでもほこほこ。光が彩る夜のさくら温泉通りを散策するなら、覚えておきたいオアシスだ。
取材・文=佐藤さゆり 撮影=加藤熊三
上記の情報は2022年11月現在のものです。
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