頑張った日の後には、仕事帰りにふらっと寄り道して晩ごはんはいかが?
1人でご飯って少しハードルが高い? 実は、中央線沿線にはソロ客歓迎のお店がたくさんある。メニューの内容だったり、お店の雰囲気も優しい気遣いがいっぱい詰まっている。
毎日の通勤は中央線、きっとそんなあなたに役立つ連載だ。
千駄ケ谷駅から南西に約650m。首都高の高架をくぐり、千駄ケ谷駅の交差点を渡る。国立競技場や東京体育館を左手に見つつ、明治通り方面へ。途中、将棋会館の近くにあり数々のプロ棋士も祈願をする鳩森八幡神社の前を通り、明治通りに出る直前に見えてくるのが、今回の目的地。名だたる棋士たちに愛される老舗うなぎ店『ふじもと』だ。
老舗の軒先に掲げられた暖簾はインパクト大⁉︎
明治通りに行き当たる直前、交差点のすぐ横に見えてくるのが創業50余年のうなぎ専門店『ふじもと』。
取材時、店頭に掲げられていた暖簾は、ちょっと珍しいタイプ。これは夏仕様の特別なものなのだとか。また、ひさしにも「UNAGI」の文字が書かれている。元々多くの国際試合が開催される“スポーツの町”でもあるこの界隈。日本語の読めない海外アスリートも、そのビジュアルに誘われて、ついつい暖簾をくぐってしまうのだろう。
店内は焼き場が見えるカウンターにテーブル席、その奥には小上がりも見える。
「おひとり様の場合、ランチ時はカウンター優先のご案内になりますが、夜は空いていればテーブル席にご案内することが多いですね」と教えてくれたのは、創業50余年のこの店を受け継ぎ、暖簾を守る二代目だ。
ソロ飯ビギナーの中には、カウンターはちょっと緊張してしまう……。そんな人も少なくない。そんな人でもテーブル席ならくつろぎながら、うなぎが焼き上がるのを待てるだろう。
香ばしくて幸せな香りに包まれる
うな重は量に合わせて松竹梅の3種類。同様にうな丼も松竹梅の3種。メニューには夜限定(18時〜)のディナーセット(お通しとうな重(梅)、肝焼・肝吸い、ビールまたは日本酒小)4500円も。この日は残念ながら肝焼が売り切れ。ならば、ディナーに訪れる女性客によく出るといううな重(竹)3600円をオーダー。
ふっくらと蒸したうなぎをタレに浸して焼き台へ。しばらくしてもう一度タレにくぐらせ、再度焼き台で飴色に焼き上げると、立ち上る煙と広がる香ばしい香りに包まれる。
セットのぬか漬けと別途オーダーした肝吸い200円がテーブルに運ばれてきた。このビジュアルだけで幸せな気分に包まれてしまうが、せっかくなので日本酒も。
この日はうなぎの中でも特においしいとされる新仔(しんこ)が出回るシーズン。脂のノリもよく、ふっくらとしたうなぎの甘みに、すっきりと少し辛口のタレが相性も良く、箸が進む、進む。近隣の米店が毎朝届けてくれるというお米はしっかりと粒が立ち、タレをたっぷり含んでいる。タレは創業以来継ぎ足しながら大切に使っているという。よく冷えてすっきりした口当たりの日本酒とのバランスも良く、幸せな時間があっという間に過ぎていく。
名だたる棋士たちのサインも!
上質なディナーの余韻に浸りながら、この店ならではのお楽しみを探そう。そう、ここは名だたる棋士たちに愛される店だ。店奥に設けられた砂壁の小上がりに、さり気なく将棋盤が置かれている。側面を見るとサインが書かれているのに気づく。
こちらは「ひふみん」の愛称で知られるレジェンド・加藤一二三九段のもの。「喜んで生きる」と記されているのが、なんとも加藤九段らしくて、あの穏やかで愛らしいお顔が思い浮かぶ。加藤九段は『ふじもと』のうなぎが特にお好きで、千駄ヶ谷での対局の際にはよく召し上がっていたという。「若かりし頃は昼に松、夜には竹と、2食出前でお持ちしたこともあるんですよ」というくらいお気に入りだったそう。そして、引退の時の勝負メシもやはりこちらのうなぎだったというから、その思いも強かったに違いない。
この盤には他にも谷川浩司十七世名人や羽生善治九段、渡辺明名人といった、将棋界の名だたるレジェンドたちの筆跡が残されている。将棋ファンならずとも、その名前は目にしたことがあるはず。スタミナ満点の勝負メシは、難しい対局の合間の疲れを癒やしてくれるのだろう。
大事な試験の前、重要なプレゼンの前、多くの棋士たちに愛された「将棋めし」にあやかって、ここぞの時に訪れたい。
ガツガツッと味わいたいなら、うな丼もおすすめ
うなぎは季節によって仕入れ先が異なり、その時期選りすぐりのものが入荷する。お重と丼は、実は器の違いだけなんだとか。食べやすさならうな丼を、「うなぎを食べた!」という満足度ならうな重を選ぶ人に分かれるらしい。テイクアウトにはお得な「ふじ」2200円から。
INFORMATION
【おすすめ情報】
去年も開催され、大好評だった人気企画、「千駄ヶ谷将棋めしラリー」が今年も2022年11月12日(土)から開催される。駅スタンプに将棋の駒の漢字が使用されている「高田馬場駅」と「王子駅」、MAPで紹介している「将棋めし」の店、将棋会館を巡る、将棋ファンにはたまらないイベントだ。コンプリートするともらえる、天童市にて作成した、オリジナル将棋駒ストラップもぜひ手に入れたい。詳しくはこちら。
取材・文・撮影=篠原美帆
上記の情報は2022年9月現在のものです。
※料金・営業時間・定休(休館・休園)日、イベント内容・期間などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業休止や営業時間・形態の変更、イベントの延期・中止など、掲載内容と異なる場合があります。