雑居ビルの３階にある『舌笑（ごち）』。立ちはだかる細くて急な階段に、ちょっぴり漂う緊張感。恐る恐る店を覗くと、白熱灯の温かい光に包まれた穏やかな空気感に安堵する。カウンター奥にいたのは、この店を切り盛りする店主・野口葉月さん。この店を始めて19年になるという、気さくな女性だ。
にぼしの酢醤油炒りや春菊の塩昆布あえといった純和風のメニューから、白子のコンフィ、鶏唐揚 香港風味、スペアリブと舞茸の一人鍋など、レパートリーは幅広い。足繁く通う常連さんのために、毎日メニューを少しずつ入れ替えている。ひとひねりを加えたメニューが多いのも野口さんの料理の特徴だ。その一例が「苺とルッコラの白あえ」。豆腐にイチゴを組み合わせるという大胆な発想！ 豆腐には練りごまを加え、最後にアーモンドスライスをトッピング。クリーミーで調和の取れた一皿だ。
店には毎日のように訪れる常連さんも少なくないという。音楽やテレビの話から、魚の顔の話、防災の話……。常連だけでなく、みんなが自然に会話に加われる話題ばかり。野口さんや常連さん達がつくるオープンなムードが心地よく、楽しい夜だった。