プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
スターロードに、一番街など、飲み屋街が縦横無尽に広がる阿佐ヶ谷。夜のイメージが強いけれど、酒屋の店内スペースの一角で購入したお酒を飲むいわゆる“角打ち”ができる店舗があるなど、昼から呑める昼酒スポットも点在する。そば屋、町中華だけじゃない。駅から南へ北へ、魅惑のひとときを求めて、いざ!
目的地までのアクセスと歩き方
新宿駅から中央線快速(土・日・祝は通過)八王子方面行きで約8分、総武線各停の三鷹行きで約12分。駅を起点に南の阿佐谷パールセンター商店街や北の松山通りへと向かうため、歩き慣れた靴で出かけたい。また、酔い覚まし用の水を持ち歩くのもおすすめ。
1.
酒ノみつや(三矢酒店)裏の部屋[阿佐ケ谷駅/酒屋・角打ち]
店主プロデュースの日本酒で地元住民と乾杯!
駅の南口から伸びる阿佐谷パールセンター商店街。ぐぐっと南下すると、酒瓶とポップが賑やかに彩る1924年(大正13)創業の酒屋が立つ。世界各地のビール約250銘柄、ワイン約200銘柄に加え、日本酒も圧巻の品揃えだ。
「昔の酒屋はどこも角打ちがあったものです。その情景を復活させたくて」と、3代目店主の三矢治さんは倉庫を片付け、2012年に角打ちを再開した。厳選日本酒とワインのコップ酒は1杯350円~、日本酒4合瓶とワインは+300円、クラフトビールは+50円で角打ちできる。GWから秋にかけては樽替わりのクラフト生ビール550円~で喉を潤せるが、せっかくならば日本酒のコップ酒を。瓶替わりで銘柄は変わるが、おすすめは『the GANG』シリーズだ。
実はこの酒、三矢さんが群馬県渋川市の酒蔵さんと意気投合したことがきっかけで、誕生したもの。長野県大町市、富山県南砺市の酒蔵も参加し、酒米、磨き、仕込みを変えた3蔵3種を用意。「群馬の純米吟醸はフルーティ、長野の純米大吟醸はスモーキー、富山南砺の純米は旨みのある辛口。姉妹版の青森県鰺ヶ沢町で醸された『RED NECK』は、昔ながらの日本酒という味です」。
先代やスタッフをデザインしたボトルラベルとお揃いのギャングTシャツで決めた三矢さんは饒舌に酒を語る。
ここでしか買えない味を試さない手はない。レジで購入し、いざ角打ち場へ。
酒屋の奥、扉を抜けた先はさながら秘密基地。すでに先客があれば、ご挨拶を兼ねて乾杯するのも楽しや。地元情報を交換しながら、セルフサービス駄菓子の串カツをつまみに飲むひとときは瞬く間に過ぎていく。不定期で鮨職人を招くイベントもあり、要チェックだ。
2.
BIRRA e VINO MASUYO [阿佐ケ谷駅/ワイン・クラフトビールのセレクトショップ・角打ち]
ナチュールワインとクラフトビールをのんびり味わう
次は駅の北エリアへ。古書店、ジェラート屋が点在する松山通りを北上すると、約90年続いた老舗酒店が2021年、ビールとワインに絞ったセレクトショップとして再開している。営むのは、塚本悦子さんと涼太さんの姉弟だ。
姉の悦子さんはワインジャーナリストで、イタリア全州をめぐり、日本各地のワインの現場にも足を運び、ていねいに仕込む小さなワイナリーを発掘。ワインセラーには約250銘柄がずらりと並ぶ。
また、通路の対面に並ぶのは、世界各地のクラフトビール約250種。弟の涼太さんがビールメーカー勤務で得た知識と経験を基に、欧州はもちろん、アメリカのポートランド、日本のブルワリーのものをセレクト。中には東中野、久我山など、地元シリーズと銘打ったコーナーもある。
まずはワインの有料試飲(50㎖440円〜、100㎖880円〜)から。赤、ロゼ、オレンジ、白、泡をとり混ぜた日替わり4種から選んで。グラスを傾けながら悦子さんと話せば、山梨だけじゃなく、山形や長野のワイナリー話、海外の小さな蔵での手仕事など、ワインにまつわる話もまた奥深く、味わい深し。
ビールを角打ちするなら、弟の涼太さんに相談するのもいい。飲みたい味を伝えると、数ある中から選んでくれる頼もしさ。定価+150円だが、本日のおすすめ2種なら角打ち代なし。「今、オレゴン州のポートランドはクラフトビール天国と言われていて、個性豊かでおいしいクラフトビール揃いですよ」と勧められ、レベルビアのIPA 748円に。
飲めば、ホップの香りが華やか! 奥に設えたウッディなテーブル席に座り、ゆっくりじっくり味わいたい。
3.
喫茶 天文図舘[阿佐ケ谷駅/喫茶]
酔い覚ましか、もう1杯か。心を惑わす潜み空間
駅北の路地に入ればそこは飲み屋街・スターロードの起点。ひっきりなしに人が出入りする青果店の活気を横目に、静けさをまとう喫茶が隠れるように立つ。
店主の山城隆輝さんから「どうぞ2階へ」と促され、縄のれんをくぐり抜けて細い階段を上がれば、思わずため息。「高円寺のアール座読書館とか、荻窪の邪宗門とか。僕が好きな喫茶空間を作りたくて」と、山城さん。お手紙セットや本、ランプ、地球儀が置かれたデスクは特等席だ。棚にはぎっしりと本が詰まっていて、「お客さんが置いていくのか、いつの間にか増えています」と、静かに微笑む。
深煎りのコーヒー500円や、猫足カップで供される紅茶500円もいいが、酔い覚ましにうってつけなのが、ラムネ750円、メロン850円、ホワイト900円の3種あるクリームソーダだ。目の前で注がれたソーダが泡立ち、飲めばすっきりとした甘み。とろりと冷たいアイスがほてった体をクールダウンしてくれる。
飲み足りない人にはお酒も嬉しい。ラムネハイ600円はほのかな甘みと共に、シュワシュワ炭酸が喉を心地よく滑り落ちる。ウイスキーやブランデーなど、濃いお酒を舐めるように飲むのもいい。銀皿にこんもり盛られたナポリタン800円は、小腹が空いたときの救世主だ。まろやかな酸味があとを引き、お酒との相性も抜群だ。
読書空間の2階席とは打って変わって、1階は阿佐ヶ谷らしい飲み屋カウンター。「常連になると、下で落ち着かれる方が多いですね」と、山城さん。ラジオの音に入り交じり、地元話、喫茶話に花が咲くことも少なくない。
昼呑みならではの背徳感と優越感がたまらない
商店街に角打ちがあり、飲み屋街には昼下がりから店を開ける居酒屋も点在。腰を落ち着けてしっぽり飲むのもいいが、日がまだ高い日中なら、角打ちで1〜2杯、サクッと飲んで次、と軽やかにはしご酒するのがクール。夜の帳が降りる頃、駅前の飲み屋街が本格始動する。そのまま、煌めくネオンの中を回遊し続けるのも一興だ。
取材・文=佐藤さゆり 撮影=逢坂 聡
上記の情報は2023年4月現在のものです。
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