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プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
高円寺駅
古本だけじゃない!高円寺ブックカルチャークエスト
街から本屋さんが消えつつあるなか、高円寺は世相と逆で、勢いを増している感がある。街の中に潜むような店も少なくなく、目指さないと辿り着けない立地もクエスト気分でワクワク。古書、ZINE、アート系など、書店ごと、棚ごとに異なるユニークなセレクトにも垂涎。本を媒介にしたブック・コミュニティも生まれている。
この記事の目次
目的地までのアクセスと歩き方
新宿駅から快速で約6分の高円寺駅下車。駅の南北に点在する書店めぐりコース。営業スタイルは午後から夜にかけて開く書店が多いので、午後のおさんぽがおすすめ。
1.
そぞろ書房[高円寺駅/ZINE・自社出版・新刊・古本]
古いアパートの一室でフリースタイルの楽しさを知る
エトアール通りから一本、路地に入った古いアパート入り口で書店の看板が道ゆく人を手招き。引き戸を恐る恐る開いても店はなく、2階へ誘う階段が伸びるばかり。
古本の小箱が置かれた緑のドアを開けると、ようやく二間をつなげたこぢんまりとした書店に到達する。
約100種並ぶのは、影響力のある独立系書店などでは見つからぬ、希少系の同人誌や自主出版のZINE。
「うちにあるZINEをみて、実際に作ってみた方もいらっしゃるんですよ」と、スタッフの小室有矢さんは「作ったら、まず持ってきて。みんなに回しましょう」と目を輝かす。
約100種並ぶのは、影響力のある独立系書店などでは見つからぬ、希少系の同人誌や自主出版のZINE。
「うちにあるZINEをみて、実際に作ってみた方もいらっしゃるんですよ」と、スタッフの小室有矢さんは「作ったら、まず持ってきて。みんなに回しましょう」と目を輝かす。
奥に一箱本棚もあり、各棚の店主の個性が発揮されたセレクトも見もの。
さらに古書は、スタッフ5名それぞれがセレクトし「僕は昔の海外文学派ですが、児童文学好き、古典文学好きもいるので、いろいろ揃ってますよ(笑)」。
さらに古書は、スタッフ5名それぞれがセレクトし「僕は昔の海外文学派ですが、児童文学好き、古典文学好きもいるので、いろいろ揃ってますよ(笑)」。
もともと、ふたり出版社『点滅社』と、本の編集など行う『小窓舎』が意気投合し、一緒に小さな書店を2023年4月に開店。
歌集や日記などの新刊も人気だが、点滅社、小窓舎の刊行本も必見だ。なかでも、小窓舎がアトリエ風戸ブックファーマシーと共同開発した「郷土玩具とお菓子 郷土玩具の動物」2,800円は、郷愁そそるほっこりタッチの和綴本で、ページをめくるたびにニンマリ。旅のお供にもいいかも。
歌集や日記などの新刊も人気だが、点滅社、小窓舎の刊行本も必見だ。なかでも、小窓舎がアトリエ風戸ブックファーマシーと共同開発した「郷土玩具とお菓子 郷土玩具の動物」2,800円は、郷愁そそるほっこりタッチの和綴本で、ページをめくるたびにニンマリ。旅のお供にもいいかも。
DATA
2.
タタ bookshop / gallery[高円寺駅/アート・デザイン系古本・新刊]
路地奥の狭小店でマニアックなアートワールドに没入
駅の北に延びる高円寺庚申通り商店街から、これまた細〜い路地に入ったその先に、目指す店が隠れている。
狭小空間ながら国内外のアート・デザイン・音楽・ファッション関連で埋め尽くされている。写真家が作ったZINE、新刊もあるが、店の約7割が古本だ。展示会用に数十部のみ作ったもの、チケットや切符などを貼り集めた趣味の手帖、手にとるとどんどんディープな世界へ引きずり込まれる感覚に陥る。
「付箋の数がすごいなと、ただそれだけの理由で置いてる本もあります」と、口元を綻ばすのは店主の石崎孝多さんだ。
「付箋の数がすごいなと、ただそれだけの理由で置いてる本もあります」と、口元を綻ばすのは店主の石崎孝多さんだ。
「かしこまらない空間なので、アーティストの方も青山のバーより、やきとり屋さんを好むタイプの方が多いですね」と、用意するドリップコーヒー350円〜やビール500円〜片手にカウンター越しに石崎さんと話し込んだり、5時間ほど物色していく常連も少なくない。
店に置かれたオルガンがいい味を醸し、2階に上がるハシゴに誰もが気を引かれる。かつてここにあった古書店「アバッキオ」の店主から、2019年の開店時に引き継いだものだ。
店に置かれたオルガンがいい味を醸し、2階に上がるハシゴに誰もが気を引かれる。かつてここにあった古書店「アバッキオ」の店主から、2019年の開店時に引き継いだものだ。
ハシゴをつたい上がれば、2階は窓のある木造のギャラリー空間。たまたま休廊中だったが、2〜3週間開催の企画展が、年20回ほど催される。
「布で空間を覆ったり、植栽を運び入れて森のインスタレーションした方がいたり。空間を好きに使っていただいています」。
「布で空間を覆ったり、植栽を運び入れて森のインスタレーションした方がいたり。空間を好きに使っていただいています」。
3.
本店・本屋の実験室/本の長屋/コクテイル書房[高円寺駅/古本・新刊、古本酒場]
古本酒場を軸に広がりを見せるブック・コミュニティー
大正期建築の長屋に入る古本酒場『コクテイル書房』を挟んで、理容室のサインポールが目印の『本店・本屋の実験室』と『本の長屋』という、2軒のシェア型書店が立つ。
高円寺北中通り商店街の一角はさながらブック銀座。その仕掛け人は古本酒場『コクテイル書房』の狩野俊さんだ。「大正期の長屋を活用して、本を媒介にいろんな人たちが関われる共有書店を」と、クラウドファンディングを実施した。
そして、奥に深い元美容室の両サイドに棚をぎっしり据えた「本の長屋」がうまれ、2023年4月に現在の形に落ち着いたという。
「店の色合いが茶系だからか、古書が集まりますね」と話すのは、運営管理も担当する函店主「本屋フォッグ」の飯村さんだ。
「店の色合いが茶系だからか、古書が集まりますね」と話すのは、運営管理も担当する函店主「本屋フォッグ」の飯村さんだ。
一箱ごとに函店主さんの遊び心も忍ばせてあり、本を探しながら店番の函店主さんとおしゃべりしていくのも楽しい。
高円寺の街情報あり、エッセイありの、函店主たちの気張らないブックライフにくすりとさせられる「長屋通信」を函店主有志で発行したり、数人単位での小さな読者会を催したりと、活動も盛んだが、「持続可能なあり方、本屋の未来をあれこれもっと探って実験できる場を」と、狩野さんは2024年8月1日、『本店・本屋の実験室』を新たに始動した。
約200冊を収蔵できる1列7〜9段ごとに棚主がいて、各々の裁量で新刊・古本などを陳列。
「今、新刊書店でも入手しづらいタイ語やアラビア語の本を専門に扱う人もいれば、新刊や、古道具を扱う人もいます。それでも、店全体として統一感がでてくるものですね」と、飯村さんは「いつか本屋を始めたい人がトライできる場所です」と目を細める。
真ん中に大テーブルを置き、フェアやイベントなども開催していく予定だ。
「今、新刊書店でも入手しづらいタイ語やアラビア語の本を専門に扱う人もいれば、新刊や、古道具を扱う人もいます。それでも、店全体として統一感がでてくるものですね」と、飯村さんは「いつか本屋を始めたい人がトライできる場所です」と目を細める。
真ん中に大テーブルを置き、フェアやイベントなども開催していく予定だ。
締めくくりには、総本山の古本酒場『コクテイル書房』へ。小上がり席の壁、窓の上、カウンターの上、壁面などと、古書に包まれる空間が圧巻で、酒を舐めながら本を漁れる夢の場所だ。
檀一雄が執筆した「檀流クッキング」に掲載された大正コロッケ2個450円は、おからをベースにしつつもサバ缶、季節の野菜も盛り込んだ、滋味深いつまみ。
武田百合子著の「富士日記」に登場した茄子にんにく炒め650円は、とろりとした茄子と甘辛醤油が絡んで酒が進んで仕様がなし。
トキワ荘名物のチューダー(焼酎&サイダー)600円もあり、文士、漫画家たちが愛する味にも心躍る。
手にした本、函店主や棚主たちとの語らい、居合わせた本好きが、ゆるやかに刺激しあう場になっている。
武田百合子著の「富士日記」に登場した茄子にんにく炒め650円は、とろりとした茄子と甘辛醤油が絡んで酒が進んで仕様がなし。
トキワ荘名物のチューダー(焼酎&サイダー)600円もあり、文士、漫画家たちが愛する味にも心躍る。
手にした本、函店主や棚主たちとの語らい、居合わせた本好きが、ゆるやかに刺激しあう場になっている。
古本に限らず、本をいろんなスタイルで楽しむ場所が点在
高円寺は今、本の街になりつつある。紹介したお店の他にも、急階段を上がる狭小店、座り読み歓迎の新刊書店や、本交換を促すカフェなど、スタイルも高円寺流にフリーダム。古典もZINEも、マンガも洋書も、本の顔ぶれもまたディープで奥深し。巡るほど、戦利品が増えていく。
取材・文=林 さゆり 撮影=オカダタカオ
上記の情報は2024年8月現在のものです。
※料金・営業時間・定休(休館・休園)日、イベント内容・期間などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
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