おいしいパンを求めてパン屋を訪ね歩く“パン屋巡り”が定着し、新しい店舗が続々オープンしている。パン屋の激戦区である中央線沿線にも注目店が誕生。実力派の職人による3つのパン屋を紹介しよう。ベーシックなパンに高度な技術でアレンジを加えた「進化系パン」にも注目。中央線沿線らしく、トレンドと地域密着の両立を目指すお店ばかりだ。
トレンドのパンスイスからハード系まで
algorithm[中野駅]
JR中野駅北口から北に10分ほど歩いた五差路に『algorithm(アルゴリズム)』がオープンしたのは2023年6月のこと。これまで個人が営むパン屋が少なかったエリアだ。通りかかるとガラス張りの店内にパンがたくさん並んでいるのが見える。「お客様から、どのパンにするか迷うと言われると嬉しい」と話すのはオーナーシェフの津田雅彦さん。津田さんは都内にある複数の有名店でシェフやスーシェフとして長く腕を磨いてきた。
現在のお店では、1日に60種類以上のパンが並び、オーソドックスなパンに独自の新しい要素を加えたものも多い。今後も新しい生地の開発や季節の食材を独自にアレンジした商品なども増やして行きたいと意欲的だ。
コンピュータの計算過程を意味する店名には、計算を尽くして新しいものを作っていくという意気込みを込めた。2023年注目のパンのひとつ、パンスイスショコラ420円は、パリパリと際立って繊細な生地と、中に挟んだアーモンドクリームとフランス産チョコのリッチさも味わい深い。北海道産発酵バターを使用したクロワッサン生地を、何度も折りたたみ層を増やすことでパリパリに仕上げている。熱意がこもったパンの代表格だ。
見た目に特徴があるクリームパンは280円。ダッチと呼ばれるトラ模様がパリッとしていて、ほんのり塩気もある。生地には生クリームが混ぜ込まれていて、しっとり。中のカスタードクリームはなめらかで香りがよく、ひとつでいろいろな味と食感が楽しめ、初めて食べるとそのコントラストと味わいに驚く。
国産小麦のほか、オーガニックシュガーやグラスフェッドバターなど使う材料も厳選している津田さんは、バゲットなどハード系のシンプルなパンにも自信あり。これまで近隣で作る店がなかったライ麦入りのハード系パン「セーグル」は初めてでも食べやすいよう工夫している。生地は吸い付くようにしっとりしていて、ライ麦パンの特徴である酸味も軽い。大きく丸いホールは1480円、4分の1なら370円。ライ麦パンの初心者も一度味わってみては?
新しいパン体験が期待できるお店だ。
高加水の技術とシェフの探究心が生んだ他にはない食感
siro[三鷹駅]
有名店『デュヌ・ラルテ』でシェフをしていた後藤一哉さんが、長く住んできた三鷹に2023年4月にオープン。お店があるのはかつて30年ほど愛されていた洋菓子店の跡だ。
『siro(シロ)』のパンはしっとりとした口溶けが最大の魅力。もっちりと吸い付くような食感の高加水パンを作る店は増えているが、高い技術と経験を生かして一般的な高加水パンよりも水分が多く、さらに食感や口溶けがよくなるように焼き上げている。店頭ではショーケースに並べるなど、乾燥しないように気配りも施されている。
看板商品のサンもそのひとつ。外側はもちもち、中央部分はふかふかしていて、舌に馴染むような口溶けのいい逸品だ。バターたっぷりのブリオッシュ生地を米油で揚げ焼きした姿が丸くて太陽みたい、と販売を担当する妻の緑子さんが命名。定番はプレーンのサン210円とキャラメルカスタードクリーム入りのキャラメル・サン290円の2種類。秋にはマロン・サン320円が登場するなど、季節ごとに新商品が登場する。
塩麹を使ったパンの「siro麹」260円と「お塩」210円、「お塩のあん子」280円もリピーターが多い。肉を柔らかくする塩麹の作用をパンに展開しようと、試行錯誤の末に誕生したパン生地だ。「想像していた通り、口溶けと歯切れがよくなり、塩麹の旨みも微かに感じられます」と後藤さん。じんわり味わい深いパンに仕上がっていて、ゆっくり味わいたくなる。
後藤さんが心掛けているのは「地に足のついた普段使いできるパン屋」。材料は国産の小麦や塩、ミネラル分の多い素焚糖(すだきとう)、有機のドライフルーツなど厳選したものばかりだ。クリームに使う平飼い卵や夏のサンに使用したブルーベリーは三鷹産と、地元の生産者とも繋がってパンを作っている。イートインスペースもあり、これから長く地元で愛されるパン屋になりそうだ。
朝食も食べられる高架下の店
パンとビストロ 高円寺FLAT[高円寺駅]
JR高円寺駅からすぐの複合施設、高円寺マシタに2023年3月にオープンした『パンとビストロ 高円寺FLAT』。朝は8時30分から夜は23時30分まで営業する、高円寺の人たちに寄り添うお店だ。
パンのテイクアウトはもちろん、朝は好きなパン2つとドリンクとサラダのセットもある。ビストロではパンの盛り合わせがお通しとして提供されて、パンに合う料理も多い。
パン屋としては高田馬場の『馬場FLAT』に続く店舗。パン職人歴20年以上で、高円寺でパンの責任者を務める伊東広貴さんは「これまでやっていなかった新しいパンにも挑戦していきたい」と、2023年トレンドのパン、シュプリームクロワッサンやクロッフィンを開発。売り切れ続出の人気商品になっている。
シュプリームクロワッサン388円とクロッフィン345円は、伊東さんによると生地が同じ。ところが食感が大きく違っていて、食べ比べるとおもしろい。チョコとホワイトチョコの2種類あるシュプリームは表面はバリッ、中はサクッ。クロッフィンは表面は軽くて内部もふわっとしている。どちらもクリームが入っていて、コーヒータイムにぴったりだ。
『馬場FLAT』でも長く人気のミルクフランス259円もおすすめ。香ばしさが際立つミニフランスパンは、さっくりと噛み応えがある。そのパンに練乳入りの濃厚なバタークリームが挟まれていて、ミルクフランス好きにはたまらないおいしさだ。もちろん、惣菜系のパンも豊富に揃う。キッシュやピザパンなどは、ビストロのキッチンスタッフとの協力で誕生した。ビストロではお通しとして提供するパンの盛り合わせに含まれるバゲットは、ビストロのメニュー、アヒージョとの相性もいい。パンと料理、そして時にお酒との組み合わせが楽しめるお店だ。
中央線がつなぐ年に一度のパンの祭典
中央線パンまつり2023
地元密着のあのお店から、行ってみたかった名店まで、
中央線のベーカリーが大集合!
地元でおなじみのあのお店から行ってみたかった名店まで、中央線沿線のベーカリーが一同に集まる「中央線パンまつり」を今年も開催! 5回目となる今回は、中央線沿線のベーカリーを中心に、ジャムや焼き菓子、キッチンカーなど約20店舗が日替わりで出店します。中央線の美味しい秋をみんなで楽しみましょう!
【開催日時】
2023年11⽉11⽇(土)・11⽉12⽇(⽇)
1部: 10:00~13:00
2部: 14:00~17:00
※通しで出店するお店は13:00~14:00も販売を行います。
※小雨決行・荒天中止
【武蔵境会場】
武蔵境 nonowa Terrace
(武蔵境駅南口すぐ)
【東小金井会場】
コミュニティステーション東小金井
(東小金井駅北口より徒歩3分)
【入場料】
無料
【特設サイト】
https://chuosuki.jp/event2/chuo_pan/
取材・文=野崎さおり 撮影=オカダタカオ
上記の情報は2023年9月現在のものです。
※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。