プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
玉川上水、野火止用水など、至る所に水路が走り、雑木林や庭木、並木道に心和む小平市。豊かな自然が息づく街には、文化的スポットも点在。水辺を辿りながら、歩いてみよう。
目的地までのアクセスと歩き方
JR西国分寺駅から、武蔵浦和・新松戸・西船橋方面に向かう武蔵野線に乗り換えて1駅、新小平駅で下車。まずは、野火止用水の歴史環境保全地域を目指し、用水沿いを歩いてブリヂストンへ。その後、ランチ休憩を挟み、玉川上水を目指すルートだ。約10kmの道のりゆえ、履き慣れた靴で出かけよう。界隈にはシェアサイクルのステーションも点在するので、利用するのもいい。
今回のコースは、武蔵野線沿線で働く駅係員・運転士を含めた「たまくらすオーバープロジェクト」メンバーによるプロデュース。
「武蔵野線は新小平駅付近では地下区間を走るので、どんな街並みなのか知らない方が多いはず。実は自然環境が豊かで魅力いっぱいの街なんです!」と話すのは、東所沢電車区の福原さん。「歩きながら、小平ならではのゆったりとした時間を堪能出来るはず。ぜひ楽しんでいただきたいです!」と、八王子信号通信技術センターの坂本さん。
「たまくらすオーバープロジェクト」では、南武線Twitter「なんなん南武線(@nambu_linePT )」を運営するなど、沿線の地域活性化を目的に様々な活動を行っている。
1.
野火止用水[新小平駅]
雑木林や住宅地を縫うようにせせらぐ、緑と花木に彩られた水路
新小平駅から一路向かうのは、野火止用水の歴史環境保全地域だ。野火止用水は1655年(承応4)、武蔵野台地の新田開発のため、玉川上水から最初に分水した全長約24kmの水路。戦後、生活様式の変化により、水質が汚染され暗渠化したが、歴史的にも貴重な土木遺産を甦らせようと住民が発起。1974年、樹林地とともに、歴史環境保全地域に指定された。
石段を辿れば水辺まで下りられ、草木の合間をせせらぐ様子に心が和む。また、水路沿いの道を行けば、庭木の花が水面に映る住宅地、和風公園の九道の辻公園へと至る。
2.
Bridgestone Innovation Gallery(ブリヂストン イノベーション ギャラリー)[新小平駅/ギャラリー]
進化を続けるゴムを知り、新たなアイデアを練る
出迎えるのは直径4022mmと世界最大級のタイヤ。2020年11月に開館し、ブリヂストンやゴムのあゆみとともに、未来に向けた取り組みを展示している。
「見て楽しむというより、学び、共感してもらい、アイデアを形にするための開発・研究へ結びつける場所です」と、館長の森英信さん。
専門性の高さゆえ、予備知識がないと難しく感じるが、無料音声ガイドを聞きながら見て回ると、深遠なるゴムの世界へと導かれる。
F-1タイヤの実際の開発車両やインディ500のレーシングカーのレプリカにも心踊るが、注目したいのは2階「WHAT WE OFFER-モビリティ社会を支える」と題した展示空間だ。居並ぶ16本のタイヤは用途や環境に応じて作られ、色、大きさ、太さが千差万別で、ゴムの成り立ち、調合による特性の違いが一目瞭然だ。館長曰く、スノータイヤのブリザックは「氷の上で暮らすシロクマや、壁や天井を行き来するヤモリの肉球をヒントに作られたんです」というから驚く。
また、1本のタイヤを部位ごとに小分けした構造にも着目。摩耗する接地面だけを交換して、接地面以外の部分は長く使えるサスティナブルな取り組みだ。さらには「環境に配慮して、素原料に戻す研究も始まっています。お好み焼きから、キャベツや卵に戻すような話ですね」。
生息地が東南アジアに集中しているパラゴムノキの代用植物、ラクダの肉球をヒントにした月面タイヤなど、実際に研究・開発に入ったアイデアも少なくない。
最新のイノベーションを紹介する映像の始まりは、宇宙から見た地球。限りある資源と人智が学べる場所だ。
3.
手打ちうどん 福助[新小平駅]
小麦と出汁と旬味の濃い香りに唸る、民家系武蔵野うどん
路地奥ののぼりを頼りに向かえば、民家の玄関に看板が見える。
営むのは、相澤さん夫妻(左・中)。「手打ちうどんのキットを買って、作ってはご近所に配ってたんだけど、お店やったらって言われて」と直美さん。店を持つならと夫の亮一さんも加わり、初めは清瀬で、後に自宅を改装して小平に移転した。
香川県産の地粉を用い、捏ね、踏み、一晩寝かせて手打ちし、2種類のうどんを用意。左は、ざるうどん用のフスマ入りの田舎風、右は温うどん用だ。
おすすめは、ざるうどんだ。手打ちの証で、希少な切り端の“エンペラ”がのっていたら大当たり。小サイズ(2玉)600円〜あり(写真は中サイズ:3玉700円)、つけ汁は、冷や汁、手搾りゆず果汁入り冷や汁(+50円)、肉汁(+50円)を用意。肉汁で味わえば、煮干し、カツオ、サバ、昆布などに、豚肉の甘みが加勢し、奥深くふくよか。ツヤピカのうどんがガシッとした歯応えで、噛むほどに小麦の香りものぼる。かき揚げ200円のほか、季節の天ぷら(セット盛りは400円)には、季節によって春の山菜、入梅イワシ、夏野菜、秋のキノコが登場し、軽い歯触りとともに旬の香りが口いっぱいに広がる。「うどん前に、つまみで一杯、日本酒を飲まれる方も多いですよ」。
4.
玉川上水[新小平駅]
江戸開府から続く水路に添う雑木林の小径
コナラ、クヌギなど、上水沿いの雑木の並木道は、植生も鳥も賑やかで、春夏秋冬、近隣住民の散歩道だ。玉川上水は1653年(承応2)、江戸市中の飲料水用に素掘りで開削。水の乏しかった武蔵野台地を潤し、開発の契機となった。1965年以降、水流は途絶えたが、東京都の事業により再生処理水を放流し、清流が復活。自然保護する玉川上水歴史環境保全地域に指定された。往時の姿を留めた貴重な土木遺産で国の史跡だ。
ふと見れば、並行して細い新堀用水が流れる。玉川上水と異なり、多摩川の自然水がせせらぎ、市内の各水路へと注ぎ込んでいる。
5.
Fleur Corbeille(フロール コルベユ)[新小平駅/カフェ・オープンガーデン]
おとぎの国から飛び出したような玉川上水沿いのカフェ
玉川上水の木立の隙間から覗き見えたステンドグラスの扉に誘われて向かうと、そこは石と木で建てられた小さなカフェ。ツルやオリーブなどの植栽に包まれ、おとぎの国感が半端ない。小平市のオープンガーデンにも登録され、春以降はバラやアジサイが花開き、通りゆく人々の目を和ませる。
店主の藤嶋扶美子さんが、元造園業の夫とともに翡翠色の緑色変成岩を手積みし、ケヤキの梁(はり)を渡して自宅を増築。扶美子さん自作のステンドグラスのランプが優美な陰影を生み、心ときめく空間だ。
2011年から数年かけて建て、初めは花屋だったが、コロナ前にカフェに転身。大ぶりのベーコンやタマネギが入った贅沢味のナポリタンや、辛口のカレー(サラダ、コーヒー付き各1000円)、ハンドドリップのコーヒー450円も評判だが、歩き疲れた体に沁みるのは、注文ごとに搾る生フレッシュジュース500円(ナポリタンセットは1100円)だ。
写真はシナノゴールド100%で、ほんのりとしたリンゴ本来の甘みの後から甘酸っぱい香りが口中でパッと華やかに花開く。「オレンジがあるときはミックスにしたり、旬になったらトマトもおいしいのよ」と扶美子さん。日々ご近所さんが日参する様子も微笑ましい。
伸びやかな心がユニークな発想を呼ぶ街
水辺に草木が繁り、花が咲き、樹木が茂る。人々が大切に守り継いできた景観を巡れば心が健やかに、伸びやかになる。さらに、カルチャースポットで、多彩な遊び心に触れれば、創作意欲や新たな発想が湧き上がってくるようだ。
上記の情報は2023年2月現在のものです。
※料金・営業時間・定休(休館・休園)日、イベント内容・期間などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。