プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
八ヶ岳が見守る小淵沢には、居を構えるアーティストが少なくなく、絵本をモチーフにしたアートスポットが点在。自然豊かな高原を歩きながら巡り、絵本の世界に思う存分、身を投じたい。
目的地までのアクセスと歩き方
新宿駅から特急あずさで約2時間の小淵沢駅下車。
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小淵沢絵本美術館へは約2.6km、三郎屋へは約2km、えほん村へは約1.7kmの道のりで、履き慣れた靴が必須。標高1000mにあるので防寒対策を忘れずに。また、GWごろ〜12月上旬はシェアサイクルのサービスもある。駅前観光案内所をはじめ、3か所にサイクルポートが設置されるので、風を切って走るのも手だ。
小淵沢駅に到着したら、改札を背に右の扉を抜け、階段を上ってみるべし。ホームを見下ろす駅舎の屋上は展望台となっていて、爽快な景色が出迎えてくれる。
北には八ヶ岳、南には南アルプス連峰(写真)が折り重なり、南東には両裾を広げて見せる富士山が空に浮かぶよう。木製テーブルとベンチに腰掛けて、美しさに見惚れるのもいい。八ヶ岳南麓の標高1000m付近に位置する小淵沢高原の風もまた涼やかだ。
2.
小淵沢絵本美術館 [小淵沢駅/美術館]
欧米作家の原画やセレクト絵本に見入る
看板に導かれて路地に入ると姿を現すのが、小さな教会のような美術館だ。出版社からの独立後も洋書絵本や翻訳絵本に携わった望月氏により1993年に建てられ、絵本の原画、ポスター、版画などが壁を彩る。館内はおうちのような造りで、部屋ごとに作家を特集。
ピアノを置いた部屋には、藤田三歩さんのメルヘン画をちりばめている。他に、窓のある部屋では、アメリカの絵本作家、ターシャ・テューダーの作品世界をその珠玉の言葉とともに展示。花の妖精が出迎える階段、哀切と温かみを併せ持つ東欧の作家たちの作品を紹介する2階もあり、見どころ満載だ。
見逃したくないのが、1階奥にある小部屋だ。押し花でファンタジーの世界を作る高田かねこさんの世界は、ユーモラスな表情につい口元がほころんでしまう。
また、絵本コーナーにも吸い寄せられる。姉とともに両親から館を引き継いだ望月愛さんが、欧米の作家を中心にセレクト絵本を展示販売。ロングセラーの作品に加え、月ごとに新作もお目見えし、絵本好きにはたまらない。
また、うれしいのがドリンクサービスだ。甘酸っぱい香りが広がるリンゴジュースを手に、南アルプスを一望するテラスで絵本を眺めるのもいい。館の裏手に回れば、シークレットガーデンのような、絵本の森ミニガーデンが広がり、春から秋にかけて可憐な花が次々と咲き誇る。山野草の小径をのんびり愛でたい。
3.
三郎屋 [小淵沢駅/カフェ]
ログハウスのカフェで風の又三郎を感じる
馬術競技場や馬の牧場が続く道沿いに立つ、丸太を組んだカナディアンログハウスが景色に馴染む。中に入れば、フラワーシャンデリアの灯りが、柱や梁、テーブルを艶やかに照らし、優美な風情だ。スピーカーから流れるのはジャズの響き。音の粒がくっきりまるく、心地よさがさらに増幅する。30年前より店を営むのは、店主の小塩由利子さんだ。「横文字の名前は覚えられないから」と、店名は風の又三郎にあやかって、三郎の名前を名付けたと笑う。
「八ヶ岳には風の神様である三郎の伝説があって、風の三郎社という祠もあるんです。実は、宮沢賢治の『風の又三郎』は、韮崎市出身の友人・保阪嘉内から三郎伝説を聞いて書いたという説もあるんですよ」。
料理にも、さりげなく地元愛が込められる。手ごねの生地をかぶせてオーブンで焼くビーフシチューのつぼ焼きにも惹かれるが、小塩さんのおすすめは、山梨ワインビーフのステーキ陶板焼き サラダ・ライス付き2300円だ。「ワインの絞り粕を肥料に加えて育った甲斐市産の牛で、希少部位のミスジを使用してるんです」。肉質がとにかく柔らか。わさびが甘みを引き出し、噛むほどに濃厚な肉汁が溢れ出す。
森やまきばを眺めるウッディなテラス席もまた牧歌的。クリームソーダ600円をいただきながら、風の神をひととき感じたい。
4.
えほん村[小淵沢駅/図書館]
絵本作家と造形作家が生み出した夢見る世界
ロッジや洋館が点在する森の中に立つのは、1983年に日本で初めて作られた絵本専門の私設図書館だ。木の造形作家である松村太三郎さんと、絵本作家のまつむらまさこさん夫妻が手がけ、1階奥に迷い込めば、夫妻の原画や絵本、作品が出迎える。木工のいきものたちがほのぼの愛らしく、さながらおとぎの国だ。
1階に加え、螺旋階段を上がった2階にもライブラリーがあり、欧州在住時代に集めたスイスやドイツなどの色彩豊かな蔵書をはじめ、国内外の珍しい絵本がずらり。光差し込む1階、木製天井が美しくアーチを描く2階ともに、自由に絵本を手に取って読み耽るのが楽しい。
夫妻はドイツで活動した後、帰国し、自然豊かな八ヶ岳に居を構えたという。
「静かに絵を描いて暮らすつもりでしたが、保育園の先生や子供たち、ご近所さんがかわるがわる訪れるようになったんです。それで、ええい、集まれる場を作ってしまえ、と始めたんです」と、まさこさん。
また、マリオネットの常設展示に加え、舞台も設置されている。「ドイツにいた頃、人形劇団にもいましたから」と、GWや夏休み期間に、太三郎さんが作った人形を器用に操るまさこさんの人形劇イベントも開催。
「このシャンソンガー子ちゃん(写真)は、シャンソンを艶っぽく歌う、大人向けの演目で登場しますよ」。
トイレットペーパーホルダーや、時計、ポストカードなど、一つ一つ手作りの木工雑貨も販売しているので、目が合ったら、うちに連れて帰ろう。
まち全体がまさに絵本の世界!
豊かな森の中に一筋の小径が通り、ホーストレッキングを楽しむ人たちが闊歩。山野草に彩られた洋館がポツポツと立ち、散策するだけでも絵本の世界の住民になった気分だ。冬眠していた数々のアートスポットもGWから本格始動。扉を開けるたび、個性豊かな世界が開かれ、何度でも旅しに訪れたくなる。
取材・文=佐藤さゆり 撮影=逢坂 聡
上記の情報は2023年3月現在のものです。
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