プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
青梅市の北部、埼玉県飯能市との県境にまたがって広がる霞丘陵(かすみきゅうりょう)。自然豊かな地には、小川、谷戸、雑木林が点在し、花寺も静かな佇まいを見せる。折しもアジサイの季節。境内から尾根道へと進み、岩蔵温泉へ至るハイキングコースで、花と緑を満喫しよう。
目的地までのアクセスと歩き方
新宿駅から青梅行きで約54分、立川駅からは約27分の東青梅駅を下車。駅北口を出たら、ベーカリー『グート』でパンを手に入れ、いざ出発。
花寺『塩船観音寺』を経て、霞丘陵自然公園へ抜け、尾根道と七国峠を辿って岩蔵温泉まで歩く約8kmのハイキングコースだ。虫除け、長袖、水分を忘れずに。比較的歩きやすい山道だが、トレッキングシューズを推奨。岩蔵温泉からの帰路には西武バス・都バスが便利。本数が少ないので、時間確認を忘れずに。
1.
グート[東青梅駅/ベーカリー]
スイスと下北沢伝承のパンをランチ用に手に入れよう
ハイキングに出かける前にまず、ランチをゲットしたいもの。住宅街にポツンと立つのは、2001年開業の小さなベーカリーだ。
ゆるさにほっこりするどうぶつパン90円と並び、手みやげに人気なのが、生クリーム入りのやわらかくきめ細かなプルマンソフト1斤280円、イギリスパン1斤280円の2種ある食パン。
店主の小山由貴さんは師匠と仰ぐ府中市『モルゲンベカライ』でスイス各地の伝統製法と低温長時間発酵を学び、24〜48時間かけて、ゆっくり発酵させ、小麦の旨味をじっくり引き出す。ミルクやバターを用いた日本人に馴染みやすい種類が多く、ベーグルすら「うちのは柔らかくて、びっくりされます。でも、食感がもっちりして、お子さんや年配の方に好評なんですよ」と笑う。
さて、スイスパンの代表格といえば、編みパンのツォップ280円(右上)だ。ちぎって食べればバターロールのような素朴な甘み。他にも、ゴロリと肉肉しく、ピクルスの酸味がアクセントのパンバーグ250円(中央)や、コロッケの衣をパンに変えたコロッケパン170円(左下)などの個性的な調理パン、パイナップルとオレンジのデニッシュ200円(右下)もおすすめ。そして、忘れてはならないのが、みそぱん180円(左上)だ。惜しまれながら閉店した下北沢『アンゼリカ』の名物を引き継ぎ、ふわっふわでしっとりとした口溶け。ネーミングの印象と異なり、信州味噌が脇役に徹し、マドレーヌのごとくバターの芳醇さが際立つ。「このパン目当てで来店される方も多いですよ」。
2.
塩船観音寺[東青梅駅/寺社]
ツツジだけじゃない! 花寺の初夏はアジサイの小径へ
パンを手に花を求めていざ、出発。道すがら、6月ならば、ここに至る丘陵台地の谷戸に広がる『吹上しょうぶ公園』に立ち寄るのもいい。雑木林の合間に約280種が咲き乱れる。
さて、山門をくぐれば、大化年間(西暦645〜650年)に開山したと伝わる古刹が現れる。山の頂から境内を見守るのは塩船平和観音立像だ。斜面一帯を色鮮やかに彩る4月中旬〜5月上旬のツツジが特に有名だが、ポコポコと連なる緑のツツジ園をのんびり歩くのも一興。参拝客が撞く『招福の鐘』の梵鐘(ぼんしょう)も時折、ボーンと余韻をたなびかせて谷間に響き渡る。
まずは、本堂にご挨拶を。山門や阿弥陀堂と合わせ、室町時代に建立された国指定重要文化財。奥多摩の虎葺き(とらぶき)と呼ばれる、茅と杉皮の交ぜ葺きの屋根、木造の寄棟造りが品格と静謐さを漂わせ、その周りに季節の花々が楚々と咲いている。6月のアジサイのみならず、7月頃のヤマユリ、9月中旬ごろからはヒガンバナやハギが色香を添え、“花寺”の異名にも納得だ。
中でもアジサイは約20年前から株を毎年、少しづつ増やし続け、「本堂と札所の間から散策路に入れますので、ぜひ見ていってください」と、執事の谷合佳彦さん。
写真提供=塩船観音寺
小径は開けた丘陵地の東斜面にあり、隣接する霞丘陵自然公園とともに自然が息づく。その合間で、青、赤、紫、白と、野趣溢れるグラデーションがあでやか。晴天の日もいいが、雨に洗われたアジサイもまた、しっとりした趣で格別だ。
3.
霞丘陵自然公園[東青梅駅]
自然豊かな丘陵地は、草花と緑が彩る爽快な景色もご馳走
アジサイの小径を抜け、霞丘陵自然公園へと入れば、広大な南斜面に可憐な草花や花木が点在し、いっそう緑が濃い。愛でながら、尾根を目指そう。
塩船観音寺と息を合わせるように、青梅市が手をかけたアジサイが年々株数を増やし、低木の白く可憐なコアジサイも自生。尾根道沿いの休憩所はアジサイに包まれるようにあり、ひと息つきたくなる。
また、休憩所の裏手にもベンチがあり、ピクニックタイムにうってつけ。樹々の緑が眼下に海のように広がり、その彼方遠くに立川の街並みが空に霞む。爽快な景色とともにランチを頬張れば、旨さ格別。
再び歩き出せば、まもなく明るいアカマツ林が広がる。歩くほどに景色が変わり、さまざまな植生が見られるのも楽しい。
4.
霞丘陵ハイキングコース[東青梅駅]
涼風が吹き抜ける中、木漏れ日を伝って歩く森の小径
霞丘陵自然公園の尾根から、道標に沿ってハイキングコースへ。尾根道とはいえ平坦ではなく、小さな丘を上ったり下ったり。鳥の声が森から聞こえ、小さな草花が足元で風に揺れている。
開けた桜並木遊歩道に出れば、葉桜の足元にキショウブやノアザミ、アジサイが初夏の彩りを添える。ところどころでビワや青梅が実り、深く息を吸い込めば、風が届けてくれる芳香がみずみずしい。
岩蔵街道に一旦出るが、ハイキングコースはまだまだ続く。標高約220mの七国峠へ向かう道に入った途端、真っ直ぐ空に伸びる杉林が出迎える。木漏れ日がまだらに落ち、風が心なしかひんやり。空気も濃く甘い。
尾根をのんびり歩いていくと、一ヶ所だけ、鬱蒼とした樹木が途絶え、すこんと空が抜けている。富士見スポットだ。見えるだろうか、うっすらと白い三角の山が。
晴天でも霞がかって見えないことがあるので、見えたらラッキー。思わず拝みたくなる。そこからは下り道。小石や根っこが剥き出しなので、滑らないように、ゆっくりと。沢が見え、視界が開けたらゴールも間近だ。
葉擦れの音、鳥の歌声、曇天もまた魅力的
青梅の花暦は、5月のツツジ、6月のアジサイ、ショウブ、7月のユリで一旦、ひと区切り。夏を過ぎれば、ヒガンバナ、ハギからモミジへと秋色が深まっていく。やはり晴天だと気持ちいいが、曇天や小雨もまたしっとり情緒的だ。ゴールの岩蔵温泉には立ち寄り湯はないが、草木を愛でるテラスを備えたカフェが点在。一服してからバスで戻ろう。
取材・文=林さゆり 撮影=逢坂 聡 写真協力=塩船観音寺
上記の情報は2023年5月現在のものです。
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