プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
富士山麓の街・富士吉田市には、古くから富士山信仰が息づき、集落ごとに浅間神社が祀られている。一年の始まりはそんな富士山のお膝元で、いい年になるよう、神社でしっかりご祈願をするのもいい。参拝と合わせて街歩きにも出かけたい。富士山が見守る中、吉田のうどん、地元商店街など、街の文化に触れるひとときに心が躍る。
目的地までのアクセスと歩き方
下吉田駅へは、新宿駅発着の特急「富士回遊」がおすすめ。毎日3往復の運行ダイヤで河口湖駅まで乗り換えなしの直通運転。中央線新宿駅、立川駅、八王子駅から乗車でき、新宿駅からは最速1時間40分、立川駅から最速1時間18分で下吉田駅に到着する。
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まずは、吉田のうどんで腹ごしらえをしてから神社巡りへ。新倉富士浅間神社では展望デッキに上がるのに、398段の石段(または坂道)を上るので、履き慣れた靴が必須。また、富士山麓に位置するので防寒対策を忘れずに。
1.
門々利(かがり)うどん[下吉田駅/吉田うどん]
煮干し出汁が効いた手打ちうどんは薬味がナイスアシスト
下吉田駅に着いたら、まずは腹ごしらえと参りたい。ご当地料理といえば、吉田のうどんだ。多くの店がそうであるように、玄関先にのれんを掲げ、畳敷きの和室が広々ゆったり。卓上の注文票に個数を書いて渡せば、注文完了だ。ふと窓の外を見れば、富士山が顔を出すことも。
吉田のうどんの王道といえば、味噌と醤油で味付けをしたスープに、硬めの麺、馬肉、茹でキャベツ、きんぴらごぼうだが、この店は、上吉田地区で長く愛された名店『羽田うどん』(閉店)を継承する独自のスタイル。
「叔父が営んでいた『羽田うどん』の味に大将が惚れて修業しました」と、女将の舟久保佐智子さん。うどんは日々手打ちしたあと、ひと晩寝かせており、弾力と歯応え、小麦の旨味が秀逸だ。澄んだ汁は瀬戸内産の煮干し出汁で、「味噌で味を誤魔化すな」という叔父の教えを守り、醤油のみで味付け。すっきり上品なコクが舌の上に広がる。そして、馬肉の代わりに、出汁と醤油で煮た豚肉をオン。甘みとコクがスープに溶ける。
肉きんぴらうどん500円の茹でキャベツトッピング+50円が着丼する前に、薬味の用意を忘れずに。「一つずつ、加えるたびに味変しますよ」と佐智子さん。辛子高菜は、ほのかな酸味と痛烈な辛味が特徴的。甲州名物の自家製すりだねは、七味と山椒の辛味とともにごま油の風味が加勢し、じわりと額に汗。天かすを入れればコクが増す。
まぜ御飯200円があれば注文を。干し椎茸、もち米を用い、頬張ればふんわり素朴な甘み。うどんの辛味と無限ループになる。
2.
新倉富士浅間神社(あらくら ふじ せんげんじんじゃ)[下吉田駅/神社]
雄大な富士山と朱塗りの忠霊塔が織りなす絶景を拝む
腹の底から温まったら、いざ初詣へ。慶雲3年(706)創建と伝わる神社は新倉山浅間公園を御神域とし、噴火した富士山の鎮火祭を大同2年(807)に斎行した地域の守り神だ。森を背に本殿が静かに立ち、木花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメノミコト)、大山祗命(オオヤマヅミノミコト)、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)を祀る。この社殿は本殿を雨風から守る覆屋(おおいや)と呼ばれ、昇殿参拝すれば、約350年前に再建された社殿の中の本殿を間近に拝める。
鬼瓦の原型と伝わる面を屋根に据え、その下、宝珠を抱く龍が見事な彫刻。「龍の玉は如意宝珠と言い、ありとあらゆる願いが叶う、大願成就のご利益ありと言われています」と、神職の渡邊平蔵さん。富士山の青と朱の提灯も艶やか。60年に一度、御神体が衣替えする珍しい神事「御更衣祭」にあやかり、「提灯の『神』の字は示す篇ではなく衣篇。初代提灯職人さんの洒落です」。
この提灯を模したお清め蝋燭(ろうそく)2000円は、魔を払う桃の香りが芳しい。大願成就のお守り500円とともに、ぜひ手に入れたい。
本殿の脇にも注目。隠れるように鎮座する小さな祠は荒濱神社だ。織物の神様だが、たて糸とよこ糸で織ることに由来し、縁結びの神様に。「浅間神社より荒濱神社の方が古く、地域の人は親しみを込めて“ご隠居さん”と呼んでいます」。
参拝を済ませたら、398段の石段「さくや姫階段」を上り、展望デッキへ。朱塗りの忠霊塔の向こう、富士吉田の里を抱くように、富士山が雲上に座る。その神々しさといったら。展望デッキのベンチで、誰もがうっとり見惚れていく。
3.
冨士山下宮小室浅間神社(ふじさん しもみや おむろ せんげんじんじゃ)[下吉田駅/神社]
神馬と戯れ、占い・おみくじを司る神社で運を占う
線路をまたぎ、南下すると、もう一つの浅間神社が立つ。晩秋、落ち葉がハート形に掃き集められ、ほっこり和む。大同2年(807)の創祀で、御神徳は占い・おみくじ。古来、数々の占い神事が伝承され、その一つが1月14日の夜から翌朝にかけて行われる「筒粥祭(つつがゆさい)」だ。作物の出来、天候、観光客の動向などを占い、深夜の斎行ながら見学可能だ。
ふと境内の東側を見れば馬場があり、サラブレッド3頭、小型の木曽馬2頭、大型のばん馬、ポニーの計7頭が愛らしい姿で出迎えてくれる。彼らは、馬が駆けた蹄の跡で吉凶を占う他に類をみない流鏑馬祭(9月開催)の主役たち。とはいえ、朝晩のえさやり300円に参加できたり、街のイベント時にふれあい体験が開催されたり。「甲斐は農耕馬の産地。第一の神の使いである神馬とふれあえる場にしたい」と、宮司の渡邊平一郎さん。
御神徳にあずかり、運気を占っていくのも一興だ。富士山、馬のおみくじ各500円なら、占ったあと、デスク周りに飾っておきたくなるキュートさ。
参道を歩けば、桜の木にハート形のこぶが。桜の花の語源と言われる御祭神の木花咲耶姫の思し召しか、今では“縁結びの神桜樹”として祀られている。ご利益、いただくべし。
4.
富士みち(本町通り)・西裏地区 [下吉田駅]
富士山が見守る、昭和の面影が色濃い商店街と路地へ
参道を抜けると、界隈一帯はレトロなデザインの建築が立ち並ぶ商店街。昭和30年代ごろまで織物産業で栄え、街の真ん中を貫く本町通りと西裏通り周辺は、関東屈指の一大歓楽街だった。一度は廃れたが、自宅を兼ねていることからたたずまいそのままの建物が数多く、現役のお店も少なくない。
アヴァンギャルドな看板デザインのスナックやバーが並ぶ中、くねくねした路地の「新世界乾杯通り」では若い世代が改装、再生した新しい店もちらほら。廃墟のような状態から復活した路地は少なくなく、「子の神通り」は夕暮れになると灯される数々の提灯が艶っぽい。扉の横に基本料金を張り出す店も多く、安心して呑めそうだ。
本町通りの本町二丁目交差点は、商店街と富士山のフォトスポット。「見えないと思っていても、数分後に顔を見せてくれることもありますよ」とは、警備していた地元の人の弁。日没後には街灯や提灯に明かりが灯り、幻想的だ。
夜の帳が降りたら、ネオン灯る路地へ
時間や天候次第で見えたり隠れたり、表情豊か。どれだけ見ていても飽きない富士山を、街の至るところから拝めるのも魅力の一つ。また、一大歓楽街だった昭和の面影は、ネオンが灯ると一変。艶やかな夜の顔を見せる。バー、スナック、居酒屋など、迷路のような路地を彷徨いながら、ネオンを頼りに足を踏み入れてみよう。
取材・文=林 さゆり 撮影=逢坂 聡
※上記の情報は2023年11月現在のものです。
※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。