プチ旅コンシェルジュへようこそ。
いつも通勤・通学など、日常の生活で利用する中央線の沿線や中央本線・青梅線。その先の沿線には、日帰りで楽しめるスポットがたくさんある。
この連載では、毎回さまざまなテーマで駅から日帰りで楽しめるおすすめコースを紹介。よく利用する駅にも、少し歩けば知らなかった魅力が見えてくる。
次の休日は中央線に乗ってプチ旅しよう!
立川駅から川崎方面へと続く南武線。南武線で多摩川を渡った先に位置する、東京都稲城市の多摩川南岸エリアには、パッチワークのように住宅地と果樹園が広がっている。梨やブドウの季節は10月中旬頃には終わるが、ていねいに仕込んだごはんやスイーツ、コーヒーなどは季節を問わず、人々の笑顔を誘っている。
目的地までのアクセスと歩き方
立川駅から川崎行き南武線に乗り換え、約18分。または、西国分寺駅から武蔵野線を経由し、府中本町駅で乗り換えて約5分(西国分寺駅から約15分)。稲城長沼駅と多摩川べりを往復するコースなので、履き慣れた歩きやすい靴で出かけよう。10月中旬までは、稲城特産の梨やブドウの直売所が市内各地で営業。10時〜昼頃に開いているので、のぞいてみるのもいい。
▶直売所に関する情報はこちら
1.
ざるやのとなり[稲城長沼駅/コーヒースタンド]
日々自家焙煎。コーヒーの知られざる魅力に目覚める
稲城長沼駅のほど近く。「町で長年親しまれている酒販店『ざるや』の隣にあるので」と、立地を店名にしたと笑うのは、店主のとなりさんだ。自身も『ざるや』に足繁く通ったクチで、空き地だったこの場所に目をつけ、『ざるや』のご主人に相談。店を建てさせてもらったという。
店内に立ち込めるのは、コーヒーの香り。直火式の回転式ロースターを駆使し、「焙煎は毎日」と、常時8種類ほどの生豆を揃え、その日の煎りたてを本日のコーヒー600円として提供している。生豆の品種も注文でき、15〜20分かけて目の前で焙煎してくれるから心が躍る。まろやかなケニアもいいが、驚くのがキリマンジャロ。酸味が強めな印象だが、深い香りの奥から甘みが花開く。そう伝えると、となりさんは「この豆の特徴が引き出せていたのなら、よかった」と、安堵の表情を見せる。
ほろりと軽い口当たりの自家製チーズケーキ400円、稲城産梨のコンポートをのせた杏仁ドーフ500円などのスイーツや、ホットサンドなどの軽食は、コーヒーと抜群の相性。土曜なら、モーニングにも使える頼もしさだ。
座り心地のよさにふと気づくと、「その椅子、大工さんが作ってくれたものなんですよ」と、となりさん。天井の高さも開放的で、色ガラス、タイル、小窓に映る植栽の色彩が洒落たアクセント。6席だけの店とは思えぬ、のびやかさがある。
帰り際、目にしたのは子どもたちからのかわいらしいメッセージだ。町の人たちが入れ替わり立ち替わり訪れては、ゆったり飲んで、おしゃべりしていく。ここには、穏やかな時間が流れている。
2.
押立堀公園[矢野口駅]
地域住民たちが手をかける小さなほっこりオアシス
多摩川の手前、道に沿って細長く続くのは火の見櫓がシンボルの小さな小さな公園だ。住宅街や果樹園沿いのせせらぎをのぞけば、でっぷり肥えた鯉が悠々と泳ぎ回る。藤棚の下は石のベンチが置かれ、木陰でひととき、休息するのにいい。
3.
いな暮らし[矢野口駅/カフェ]
心と体に栄養補給。手をかけたごはんとおやつと、お楽しみを
住宅街に入り込むと、門扉に掲げられた看板に興味をそそられた。古い民家の玄関が開け放たれ、道ゆく人を誘っている。
営むのは、鈴木ともみさん(右)・萌さん母娘だ。自宅のガレージで青空市から始め、縁あってこの民家に出合い、「食べること、話すこと、作ることを分かち合う場」として2014年に開店。萌さんが、稲城長沼駅のコミュニティ施設「くらすクラス」を立ち上げる会合の場にも使っていたが、近くにお昼休憩できる場所がなく、おむすびと味噌汁を用意したことからメニューが増えていったと笑う。
ランチは1種類。日替わりごはん(1 drink付き)1980円は、多摩周辺でとれた野菜や果実を使い、「今日は何?」と楽しみに訪れる常連客も少なくない。「野菜の出汁をベースに、あま酒で甘みを加えたり、塩麹やひしおといった発酵調味料を使ったりしているんですよ」(萌さん)と、玄米ごはんや野菜たっぷりスープが主役。唐揚げにも驚く。ふっくらプリプリ&ジューシーだが、じつは大豆ミート。鶏肉にしか思えない! 「この間、ととのいました〜と言って帰られた方もいましたよ」(萌さん)。ヴィーガン料理の数々は滋味にあふれ、体のすみずみに沁み入るのを実感するのだ。
卵や乳製品などを使わず、植物性の素材で仕上げる日替わりのスイーツも見逃せない。フルーツあんみつ700円のほか、ケーキやタルトも用意する。ともみさんの次女のアレルギーをきっかけに、「みんなで一緒に囲めて、おいしく、楽しく、お腹いっぱい食べられるように」と、ともみさんが編み出したレシピ揃い。
店で用いる味噌やあま酒、オーガニックハーブティー、ヴィーガン仕様のおやつは手みやげにも喜ばれている様子だ。
庭を眺める縁側席の奥にはちゃぶ台が並び、年配客、男性客、赤ちゃん連れなど、幅広い世代が絵本や本を自由に手に取り、思い思いにくつろいでいく。
絵本やパントマイムを披露するユニット「おむすびひろば」のライブ、クラフト作家の作品展示やマルシェなども不定期開催され、今も世代を超えて集うコミュニティの場。ゆるゆる活動している。
4.
アカシア林と多摩川[稲城長沼駅・矢野口駅]
季節ごとに表情を変える多摩川のほとり
『いな暮らし』から目と鼻の先が多摩川。サイクリングロードから一段下がったグラウンドに降り、西へ歩くと、鬱蒼とした樹木の合間に小径が伸びている。アカシア林だ。山林や雑木林がない押立地区で、薪として利用するため植樹されたという。樹高20〜30mまで伸びた通称アカシアの木々は、本当はニセアカシア(和名ハリエンジュ)で、5〜6月に白い花房を下げて甘い香りを漂わせるとか。下草が茂り、色とりどりの野花が咲き、12月にかけて徐々に黄葉していく約1kmの明るい林の小径は、絵本に出てくる世界のようだ。
アカシア林を抜けて、多摩川べりの遊歩道を進むと、ゆったり蛇行する多摩川の水面が間近になる。このまま川沿いを歩いていくもよし、稲城長沼駅へ戻るもよし、だ。
<番外編>くらすクラス
稲城長沼駅を降りてすぐ東側の高架下にある、『くらすクラス』。白いフレームと人工芝が特徴的なこの場所は、地域の拠点として誰でも休んだり遊んだりできる広場で、月1回程度地域住民が出店するマルシェも開催されている。
2023年3月よりガーデンで栽培されているホップは、稲城長沼駅社員とくらすクラスのスタッフの手で育てられ、「ぽっぽやエール」として醸造予定。散歩終わりの休憩に、ホップの緑に癒されに、立ち寄ってみてはいかが。
心のこもったていねいな味わいに癒やされる
秋の多摩川南岸エリアで、コーヒーの香りに癒やされながら店主とおしゃべりしたり、戸を開け放った広々民家で、体が喜ぶ料理を食べながら、居合わせた客と談笑したり。手をかけた味はどうやら人をのびやかな心地にし、心の垣根まで取り払ってくれるようだ。
「JR南武線」をテーマにした初のクラフトビールマルシェ!
JR南武線沿線の魅力の詰まった10ブルワリーが稲城長沼に大集合します!
【開催期間】
2023年10月13日(金)16:00~21:00(L.O 20:45)
2023年10月14日(土)11:00~20:00(L.O 19:45)
※少雨決行・荒天中止
【会場】
いなぎペアパーク
(JR稲城長沼駅 南口からすぐ)
【入場料】
無料
【特設サイト】
https://www.kurasu-class.me/event2/nanbuline-beer/
取材・文=林 さゆり 撮影=逢坂 聡
※上記の情報は2023年9月現在のものです。
※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
※表記されている価格は税込みです。